「先生、夜中に手の指がジンジンしびれて、目が覚めてしまうんです……」そう言って手を振りながら来院したのは、事務職のシビ子さん。手を振るとちょっと楽になる。親指から中指のあたりがしびれ、細かい作業やスマホでボタンを押し間違えることも増えた。この手のしびれ、いったい何が起きているのか?

先生、朝方に手がしびれて目が覚めるんです。
手を振るとマシになるんですけど…これって何なんでしょう?

夜間や明け方に手がしびれて、振ると楽になる――それ、手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)の代表的なサインだよー。手首のトンネルで神経が圧迫されてるんだ。

しびれるのはどの指かな?親指から中指のあたり?それとも小指も?

親指・人差し指・中指ですね。薬指の親指側もかな…。
小指はしびれないです。

小指がしびれないのが大事なポイントだよー。それは正中神経という神経の担当エリアなんだ。手首のトンネルで押されてる可能性が高い。テストしてみようねー。


手の甲どうしを合わせて、手首を曲げた姿勢で少しキープするよー。(30秒…)それから手首の真ん中を軽くトントン。どう?

あっ、しびれが強くなってきました…!
トントンすると、指先までビリッと響きます!

ファレンテスト陽性、チネル徴候陽性だねー。手根管症候群の可能性が高いよ。原因がはっきりしたから、対策していこうねー。
手根管症候群って何が起きてるの?
正体:手根管症候群は、手首にある「手根管」というトンネルの中で、正中神経が圧迫されて、母指〜環指の親指側にしびれや痛みが出る病気です。手根管は、手根骨と、その上を屋根のようにおおう屈筋支帯(横手根靱帯)で囲まれたトンネルで、中を正中神経と9本の指の屈筋腱が通ります。
なりやすい人:妊娠中・更年期の女性、パソコンや手作業を多くする人、透析中の人、糖尿病や甲状腺の病気がある人など。夜間〜明け方にしびれが強く、手を振ると楽になる(フリックサイン)のが特徴です。進行すると母指の付け根の筋肉(母指球)がやせて、つまむ力が落ちてきます。
カギを握る正中神経
走行:正中神経は前腕の真ん中を下り、手首の手根管を通って手のひらへ入ります。トンネルが狭くなったり中身がむくんだりすると、ここで圧迫されます。
感覚の担当:母指・示指・中指と、環指の親指側半分の手のひら側。だから「小指はしびれない」のが手根管症候群を疑う手がかりになります。
運動の担当:母指球の筋肉(短母指外転筋・母指対立筋など)を支配し、母指を手のひらに対して立てる・つまむ動きに関わります。ここが弱ると、ビンのフタ開けやボタンかけがしづらくなります。
徒手検査で見極める
ファレンテスト:手の甲どうしを合わせて手首を屈曲させ、1分ほど保ちます。正中神経領域のしびれが強まれば陽性。
チネル徴候:手首の手根管の上を軽くたたくと、指先へビリッと放散するしびれが出れば陽性。
注意サイン:母指球がやせてきた・つまむ力が明らかに落ちた・しびれが常にある場合は神経の障害が進んでいるサインで、手術が必要なこともあります。整形外科での評価をすすめます。鍼灸は軽〜中等症のしびれの緩和や、手首まわりの環境改善に役立ちます。
鍼とお灸はなぜ効く?
鍼のしくみ:手根管まわりや前腕の屈筋群のトリガーポイントに鍼をすると、筋の緊張がゆるみ血流が回復して、トンネル内の環境が整い、しびれや痛みがやわらぎます。鎮痛は「ゲートコントロール説」=太い神経への刺激が脊髄で痛みの信号を抑えます。局所の血流改善はむくみの軽減にもつながります。
お灸とセルフケア:お灸の温熱で手首を温め血流を促進。あわせて、夜間は手首をまっすぐ保つサポーター(装具)で安静にする、手を使いすぎない、こまめに手首を休めることが大切です。手首を反らせるストレッチも無理のない範囲で。
東洋医学でみる手のしびれ
病態:東洋医学では、使いすぎ(労損)に気血の滞り(瘀滞)が加わって経絡が通じなくなる「不通則痛」、あるいは妊娠・産後・更年期の気血不足や水湿で経絡が養われず、しびれ(麻)が出ると考えます。手のひらの中央から手首にかけては手の厥陰心包経が走ります。
治法:舒筋活絡・通絡止痛・行気活血(筋をゆるめ経絡を通し、気血を巡らせて痛みとしびれを取る)。
選穴:大陵(心包経の原穴・手首横紋の中央でまさに手根管の真上)、内関(心包経の絡穴)、労宮(心包経・手のひら)、合谷(大腸経の原穴)、外関(三焦経)、圧痛のある阿是穴。局所と経絡の両面から巡りを整えます。


手首の大陵と内関、前腕の屈筋に鍼をするよー。お灸で温めようねー。夜はサポーターで手首をまっすぐにして、手を休めてあげてね。
一週間後・・・
一週間後、シビ子さんはよく眠れた様子で、すっきりした顔で現れた。

先生、夜中に目が覚めることが減りました!
サポーター、地味だけどすごく効きますね。

よかったねー!手根管症候群は、手を休めて環境を整えると楽になることが多いんだ。しびれが強くなったり、指の力が落ちてきたら、早めに整形外科にも相談してねー。
手根管症候群のまとめ
手根管症候群は、手首の手根管の中で正中神経が圧迫され、母指〜環指の親指側にしびれや痛みが出る病気です。「小指はしびれない」「夜間・明け方に強い」「手を振ると楽」が手がかり。ファレンテストやチネル徴候で見極め、母指球のやせやつまむ力の低下があるときは整形外科での評価が必要です。妊娠中・更年期の女性や手をよく使う人に多く見られます。
施術では手根管まわりや前腕屈筋のトリガーポイントへの鍼で緊張をゆるめ(ゲートコントロール説)、お灸の温熱で血流を促します。東洋医学では手の厥陰心包経の巡りととらえ、大陵・内関・労宮・合谷などで舒筋活絡・通絡止痛。あわせて夜間の装具と手の安静が回復のカギです。西洋と東洋の両面から、つらい手のしびれにアプローチしていきましょう。
参考文献
本記事は、はり師・きゅう師国家試験の指定教科書をもとに、鍼灸師である運営者が作成しています。
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『解剖学 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学総論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学各論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 経絡経穴概論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 東洋医学臨床論(はりきゅう編)』医道の日本社
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合や強い痛み・しびれがある場合は、医療機関にご相談ください。


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