「先生、ドアノブを回すだけで肘の外側が痛いんです……」そう言って腕をさすりながら現れたのは、事務職のテニ夫さん。テニスなんて学生以来やっていないのに、なぜか「テニス肘」と言われたらしい。重い荷物を持つと肘の外側にズキッ。フライパンを振るのもつらい。運動していないのにテニス肘――果たしてこの痛み、治るのか?

先生、僕テニスやってないのに「テニス肘」って言われたんですよ。
意味がわからないんですけど!?

あはは、よく言われるやつだねー。
「テニス肘」は俗称で、正式には上腕骨外側上顆炎(がいそくじょうかえん)。テニスはきっかけの一つってだけで、家事やパソコン作業でもなるんだよー。

どんな動きで痛む?物を持ち上げるとき?それとも手首を返すとき?

手首を上に反らせるときと、ペットボトルを持ち上げるときですね。
肘の外側のちょっと出っぱった骨のあたりがズキッと!

なるほどねー。その出っぱった骨が外側上顆。そこには手首を反らす筋肉たちがくっついてる。使いすぎでその付着部が傷んでるパターンだねー。ちょっと検査してみよう。


じゃあ、手首をグーにして上に反らしてー。僕がそれを下に押し返すよ。(ぐっ)どう?

イタタタッ!!まさにその肘の外側に響きます!

はい、トムゼンテスト陽性!これで外側上顆炎はほぼ確定だねー。原因の筋肉もだいたい見当がついたよ。
テニス肘(外側上顆炎)って何が起きてるの?
正体:テニス肘は正式には「上腕骨外側上顆炎」。手首や指を反らす前腕の伸筋群が、使いすぎによって上腕骨外側上顆の付着部で微小な断裂・変性・炎症を起こした状態です。テニスのバックハンドが有名ですが、実際は家事・パソコン・重い物を持つ動作など日常の反復動作が原因のことが多いです。
犯人:主犯は短橈側手根伸筋(ECRB)。ほかに長橈側手根伸筋、総指伸筋が関わります。これらは「共通伸筋腱」として外側上顆に付着しているため、ここに負担が集中します。
痛みを出す筋肉(起始・停止・作用・支配神経)
短橈側手根伸筋(ECRB):起始=上腕骨外側上顆(共通伸筋腱)/停止=第3中手骨底/作用=手関節の背屈・橈屈/支配神経=橈骨神経(後骨間神経)。テニス肘で最も傷みやすい筋です。
総指伸筋:起始=上腕骨外側上顆/停止=第2〜第5指の指背腱膜/作用=第2〜第5指の伸展・手関節の背屈/支配神経=橈骨神経(後骨間神経)。
長橈側手根伸筋:起始=上腕骨外側縁下部/停止=第2中手骨底/作用=手関節の背屈・橈屈/支配神経=橈骨神経。伸筋群が連動して外側上顆を引っぱります。
徒手検査で見極める
トムゼンテスト:手首を背屈させ、そこに検者が抵抗を加えます。外側上顆に痛みが出れば陽性。
中指伸展テスト:中指の伸展に抵抗をかけ、外側上顆に痛みが出れば陽性(ECRBのストレス)。
チェアテスト:肘を伸ばしたまま椅子を持ち上げてもらい、外側上顆に痛みが出れば陽性。しびれや夜間痛が強い場合や、握力が急に落ちる場合は、神経の絞扼など別の原因も考え医療機関の受診をすすめます。
鍼とお灸はなぜ効く?
鍼のしくみ:硬くなった前腕伸筋群のトリガーポイントに鍼をすると、筋の緊張がゆるみ血流が回復し、付着部の負担が軽くなります。鎮痛は「ゲートコントロール説」=太い神経(Aβ線維)への刺激が脊髄で痛みの信号を抑えます。さらに局所の血流改善が組織の修復を後押しします。
お灸とセルフケア:温熱で血流を促し回復を早めます。あわせて伸筋のストレッチ、エルボーバンド、そして何より「使いすぎの動作を一度休める」ことが大切。痛みが強い時期は無理に握る・ひねる動作を減らしましょう。
東洋医学でみるテニス肘
病態:東洋医学では使いすぎによる「労損」に、気血の巡りの滞り(瘀滞)が加わって経筋を傷めた状態と考えます。「通じざれば則ち痛む(不通則痛)」ですね。肘の外側は主に手の陽明大腸経が走ります。
治法:舒筋活絡・行気活血(筋をゆるめ経絡を通し、気血を巡らせる)。
選穴:曲池(大腸経の合土穴で肘の代表穴)、手三里(大腸経・前腕の要穴)、圧痛のある阿是穴、外関(手の少陽三焦経)、合谷(大腸経の原穴)。局所と経絡の両方から巡りを整えます。


曲池と手三里、それから前腕の一番痛いスジに鍼をしていくよー。そのあとお灸で温めようねー。今週は重い物を持つのをちょっとお休みしてね。
一週間後・・・
一週間後、テニ夫さんはペットボトルを軽々と持ち上げてみせた。

先生、ドアノブがスッと回せます!
あんなに痛かったのが嘘みたい。使いすぎだったんですね…。

よかったねー!再発しやすいから、作業の合間に前腕を伸ばすストレッチを習慣にしてね。痛みが戻ったら早めにおいでー。
テニス肘のまとめ
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、手首や指を反らす前腕伸筋群の使いすぎで、外側上顆の付着部が傷む障害です。主犯は短橈側手根伸筋(ECRB)。テニスに限らず家事やデスクワークでも起こります。トムゼンテストや中指伸展テストで見極め、しびれや強い夜間痛があるときは神経の問題も念頭に医療機関につなぎます。
施術は前腕伸筋のトリガーポイントへの鍼で緊張をゆるめ(ゲートコントロール説)、お灸の温熱で血流を促します。東洋医学では手の陽明大腸経の巡りととらえ、曲池・手三里・合谷などで舒筋活絡。あわせて使いすぎの休息と伸筋ストレッチが再発予防のカギです。西洋と東洋の両面から、つらい肘の痛みにアプローチしていきましょう。
参考文献
本記事は、はり師・きゅう師国家試験の指定教科書をもとに、鍼灸師である運営者が作成しています。
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『解剖学 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学総論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学各論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 経絡経穴概論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『はりきゅう理論 第3版』医道の日本社
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合や強い痛み・しびれがある場合は、医療機関にご相談ください。


コメント