「先生、朝ベッドから降りて最初の一歩が、かかとにグサッと刺さるみたいに痛いんです……」そう訴えるのは、趣味でランニングを続けているカカ男さん。歩いているうちに少し楽にはなるが、また休んで歩き出すと痛い。最近は距離を伸ばしていたらしい。この“朝の一歩”のかかと痛、いったい何が起きているのか?

先生、朝の一歩目がとにかく痛くて!
でも歩いてると楽になるんですよ。これってなんなんですか?

その「朝の一歩目が痛い」「動き出すと楽」――それ、足底腱膜炎(そくていけんまくえん)のすごく典型的なサインだよー。ランナーや立ち仕事の人に多いんだ。

足底腱膜…?かかとの骨が悪いんじゃないんですか?

骨そのものより、かかとから足の指へ張っている「足底腱膜」っていう膜の付け根が傷んでることが多いんだよー。ちょっと押して確かめてみようねー。


かかとの内側のちょっと前、ここを押すよー。(ぐっ)それから足の親指を反らせてみるねー。

ウッ!そのかかとの内側、まさにそこが痛いです!
親指を反らすと足の裏がピーンと張って響きます!

うん、踵骨内側結節の圧痛とウィンドラステスト陽性だね。足底腱膜炎で間違いなさそう。ふくらはぎもカチカチだねー、これも関係してるよ。
足底腱膜炎って何が起きてるの?
正体:足底腱膜炎は、かかとの骨から足の指のつけ根まで扇状に張る「足底腱膜」に、繰り返しの牽引ストレスがかかって、付着部(特に踵骨内側結節)で微小断裂・炎症・変性が起きた状態です。ランニング、立ち仕事、扁平足やハイアーチ、硬い靴などが誘因になります。
典型的なサイン:朝起きて最初の一歩や、座った後の歩き出しでかかとがズキッと痛み、動いていると和らぐのが特徴。踵骨の内側前方に圧痛があります。ふくらはぎ(下腿三頭筋)の硬さがあると足底腱膜への負担が増します。
カギを握るふくらはぎの筋肉
腓腹筋:起始=大腿骨の内側顆・外側顆/停止=アキレス腱を介して踵骨隆起/作用=足関節の底屈、膝関節の屈曲/支配神経=脛骨神経(S1・S2)。
ヒラメ筋:起始=脛骨・腓骨の後面/停止=アキレス腱を介して踵骨隆起/作用=足関節の底屈/支配神経=脛骨神経。腓腹筋とあわせて下腿三頭筋を構成します。
ポイント:下腿三頭筋が硬いとアキレス腱を通じて踵が引っぱられ、足底腱膜の張力も増します。だから足の裏だけでなく、ふくらはぎのケアがとても大切です。
徒手検査で見極める
ウィンドラステスト:足の親指(母趾)を背屈させると足底腱膜が巻き上げられて緊張し、かかとに痛みが誘発されれば陽性。
圧痛の確認:踵骨内側結節(かかとの内側前方)を押して痛みを確認します。
鑑別:かかとの中央がしびれる・叩くと電気が走る場合は足根管症候群など神経性、朝より夜に強い・安静時もうずく場合は別の疾患も考えます。強い腫れや発赤、体重をかけられないほどの痛みは医療機関の受診をすすめます。
鍼とお灸はなぜ効く?
鍼のしくみ:足底腱膜や下腿三頭筋のトリガーポイントに鍼をすると、筋・腱膜の緊張がゆるみ血流が改善して、付着部の牽引ストレスが軽くなります。鎮痛は「ゲートコントロール説」=太い神経への刺激が脊髄で痛みの信号を抑えます。局所の血流改善が組織の修復も後押しします。
お灸とセルフケア:お灸の温熱で血流を促進。あわせてふくらはぎと足底のストレッチ、足底アーチを支えるインソール、走行距離を一時的に減らすことが有効です。朝起きる前に足首をゆっくり動かしておくと、最初の一歩の痛みがやわらぎます。
東洋医学でみるかかとの痛み
病態:かかとは東洋医学で「腎」と深く関わる場所です(腎は骨をつかさどり、踵は腎経とつながる)。加齢や慢性の使いすぎによる腎の弱り(腎虚)に、労損や寒湿、気血の瘀滞が加わって痛むと考えます。足底には足の少陰腎経、かかと〜ふくらはぎには足の太陽膀胱経が走ります。
治法:補腎・舒筋活絡・散寒(腎を補い、筋を緩め経絡を通し、冷えを散らす)。
選穴:湧泉(腎経の井穴・足底)、太渓(腎経の原穴・内果後方)、崑崙(膀胱経・外果後方)、承山(膀胱経・ふくらはぎ)、圧痛のある阿是穴。腎を補いながら局所の巡りを整えます。


足の裏の痛いところと、ふくらはぎの承山、それから太渓に鍼をするよー。お灸でしっかり温めようねー。今週はランを少しお休みして、ストレッチを毎日やってみてー。
一週間後・・・
一週間後、カカ男さんは軽い足取りで治療院にやってきた。

先生、朝の一歩目がだいぶ楽になりました!
ふくらはぎの硬さが原因だったなんて、意外でした。

いい調子だねー!足底腱膜炎は焦らずケアを続けるのが大事。距離は少しずつ戻して、走る前後のストレッチとふくらはぎのケアを忘れずにねー。
足底腱膜炎のまとめ
足底腱膜炎は、かかとから足指へ張る足底腱膜の付着部(踵骨内側結節)に、繰り返しの牽引ストレスがかかって傷む障害です。「朝の最初の一歩が痛い・動くと楽」が典型的なサイン。ウィンドラステストや踵の圧痛で見極め、しびれや強い腫れがあるときは別の疾患も考えて医療機関につなぎます。ふくらはぎ(下腿三頭筋)の硬さが隠れた原因になっていることも多いです。
施術では足底腱膜と下腿三頭筋のトリガーポイントへの鍼で緊張をゆるめ(ゲートコントロール説)、お灸の温熱で血流を促します。東洋医学ではかかとを「腎」ととらえ、湧泉・太渓・崑崙・承山などで補腎・舒筋活絡。あわせてストレッチ・インソール・走行距離の調整が回復と再発予防のカギです。西洋と東洋の両面から、つらいかかとの痛みにアプローチしていきましょう。
参考文献
本記事は、はり師・きゅう師国家試験の指定教科書をもとに、鍼灸師である運営者が作成しています。
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『解剖学 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学総論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 東洋医学概論』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 経絡経穴概論 第2版』医道の日本社
- 公益社団法人東洋療法学校協会 編『はりきゅう理論 第3版』医道の日本社
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合や強い痛み・しびれがある場合は、医療機関にご相談ください。


コメント