抱っこで手首がズキン!! ~ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の正体~

症例ブログ

「先生、赤ちゃんを抱っこするたびに、手首の親指側がズキンと痛むんです……」生後数か月の赤ちゃんを育てるケン子さんが、手首をおさえながら来院した。スマホを持つのも、ペットボトルのフタを開けるのもつらい。産後、急にこの痛みが出てきたという。育児で酷使する手首に何が起きているのか?

ケン子さん
ケン子さん

先生、手首の親指の付け根がすごく痛くて…。
抱っこもスマホも、親指を使うたびにズキッとくるんです。

アフロ先生
アフロ先生

産後や育児中にすごく多いやつだねー。手首の親指側の痛みはドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の可能性が高いよ。
親指を動かす腱が通るトンネルで炎症が起きてるんだ。

ケン子さん
ケン子さん

腱鞘炎…!腱のトンネルってどこにあるんですか?

アフロ先生
アフロ先生

手首の親指側の出っぱった骨(橈骨茎状突起)のところだよー。そこを2本の腱が通ってるんだ。ちょっとテストしてみようねー。

【ここに手首親指側の触診・フィンケルシュタインテストの画像を入れる】
アフロ先生
アフロ先生

親指を握り込んでグーを作って…そのまま手首を小指側にゆっくり倒すよー。(そーっ)どう?

ケン子さん
ケン子さん

イタタタッ!!手首の親指側に激痛が走ります!

アフロ先生
アフロ先生

はい、フィンケルシュタインテスト陽性!これでドケルバン病はほぼ確定だねー。原因の腱もはっきりしたよ。

ドケルバン病って何が起きてるの?

正体:ドケルバン病は「狭窄性腱鞘炎」の一つで、手首の親指側(橈骨茎状突起部)にある第1区画のトンネル(腱鞘)で、母指を動かす2本の腱がこすれて炎症・肥厚を起こし、腱の滑りが悪くなって痛む状態です。産後・育児(抱っこ)やスマホ、手作業の反復で親指を使いすぎると起こりやすく、女性や妊娠・出産期に好発します。

犯人の腱長母指外転筋短母指伸筋の腱。この2本が同じトンネルを通るため、親指の使いすぎで摩擦が集中します。

痛みを出す筋肉(起始・停止・作用・支配神経)

長母指外転筋:起始=橈骨・尺骨の後面と骨間膜/停止=第1中手骨底/作用=母指の外転、手関節の橈屈/支配神経=橈骨神経(後骨間神経)。

短母指伸筋:起始=橈骨後面と骨間膜/停止=母指の基節骨底/作用=母指(MP関節)の伸展・外転/支配神経=橈骨神経(後骨間神経)。

ポイント:この2本の腱が橈骨茎状突起の腱鞘トンネルを一緒に通ります。抱っこで親指を広げて支える動作は、まさにこの2筋を酷使するので痛みが出やすいのです。

徒手検査で見極める

フィンケルシュタインテスト:母指を握り込んでこぶしを作り、手首を小指側(尺屈)へ倒します。橈骨茎状突起部に強い痛みが出れば陽性。

アイヒホッフテスト:同様に母指を握り込ませて尺屈させ、痛みを確認する方法です。

鑑別・注意:親指のしびれや、母指付け根の関節(CM関節)の変形・痛みがある場合は、母指CM関節症など別の原因も考えます。腫れや痛みが強く日常生活に支障が大きいときは、整形外科の受診もすすめます。

鍼とお灸はなぜ効く?

鍼のしくみ:炎症を起こした腱鞘まわりや、前腕の母指を動かす筋のトリガーポイントに鍼をすると、緊張がゆるみ血流が回復して、腱の滑りと痛みが改善します。鎮痛は「ゲートコントロール説」=太い神経への刺激が脊髄で痛みの信号を抑えます。局所の血流改善が炎症の回復も後押しします。

お灸とセルフケア:お灸の温熱で血流を促進。あわせて、親指の使いすぎを減らす、抱っこの持ち方を工夫する、サポーターやテーピングで母指と手首を安静に保つことが大切です。強い時期は無理に親指を広げる動作を控えましょう。

東洋医学でみる手首の腱鞘炎

病態:東洋医学では使いすぎによる「労損」に気血の滞り(瘀滞)が加わって経筋を傷めた状態と考えます。産後は気血が不足しやすく、筋を養う力が落ちて痛みが長引くことも。手首の親指側には手の太陰肺経手の陽明大腸経が走ります。

治法:舒筋活絡・行気活血(筋をゆるめ経絡を通し、気血を巡らせる)。産後は養血も意識します。

選穴陽渓(大腸経・橈骨茎状突起の親指側でまさに患部)、列缺(肺経の絡穴)、合谷(大腸経の原穴)、手三里(大腸経)、圧痛のある阿是穴。局所と経絡の両面から巡りを整えます。

【ここに陽渓・列缺・合谷への施術シーンの画像を入れる】
アフロ先生
アフロ先生

患部の陽渓と、列缺・合谷に鍼をするよー。そのあとお灸で温めようねー。抱っこは手のひら全体で支えて、親指1本に力を集めないのがコツだよ。

一週間後・・・

一週間後、ケン子さんは赤ちゃんを楽そうに抱っこしながら現れた。

ケン子さん
ケン子さん

先生、抱っこのときのズキンがだいぶ減りました!
持ち方を変えただけでこんなに違うんですね。

アフロ先生
アフロ先生

よかったねー!育児中は手を休めるのが難しいけど、こまめにお灸で温めて、テーピングも上手に使ってね。無理せず、つらいときはまた頼ってー。

ドケルバン病のまとめ

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)は、手首の親指側の腱鞘トンネルで、長母指外転筋と短母指伸筋の腱がこすれて炎症を起こす障害です。産後・育児やスマホなど親指の使いすぎが誘因で、女性に多く見られます。フィンケルシュタインテストで見極め、母指CM関節症など別の原因や強い症状があるときは整形外科につなぎます。

施術では腱鞘まわりと前腕の筋のトリガーポイントへの鍼で緊張をゆるめ(ゲートコントロール説)、お灸の温熱で血流を促します。東洋医学では手の太陰肺経・手の陽明大腸経の巡りととらえ、患部の陽渓・列缺・合谷などで舒筋活絡。あわせて親指の安静・持ち方の工夫が回復と再発予防のカギです。西洋と東洋の両面から、つらい手首の痛みにアプローチしていきましょう。

参考文献

本記事は、はり師・きゅう師国家試験の指定教科書をもとに、鍼灸師である運営者が作成しています。

  • 公益社団法人東洋療法学校協会 編『解剖学 第2版』医道の日本社
  • 公益社団法人東洋療法学校協会 編『臨床医学各論 第2版』医道の日本社
  • 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 東洋医学概論』医道の日本社
  • 公益社団法人東洋療法学校協会 編『新版 経絡経穴概論 第2版』医道の日本社
  • 公益社団法人東洋療法学校協会 編『はりきゅう理論 第3版』医道の日本社

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合や強い痛み・しびれがある場合は、医療機関にご相談ください。

この記事を書いた人
アフロ先生|鍼灸師・施術歴20年以上

鍼灸師・整体師として施術歴20年以上。はり師・きゅう師の国家資格を取得し、現在も臨床現場で施術を続けています。これまでの経験を生かし、鍼灸学生の国家試験対策や、難しい医学知識をやさしく学べるコンテンツを制作しています。教材は「理解しやすさ・続けやすさ・国試対策への活用」を基準に紹介しています。

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