今回は朝起きたら急に顔の片側が動かなくなってしまった患者さんが来院しました。歯みがきのときに口から水がこぼれ、目もうまく閉じられない…。鏡の前で青ざめるマヒ子さん。これは一体何が起きているのか、そして鍼でアプローチできるのか?果たして笑顔は戻ってくるのか!?

先生、大変なんです…!
今朝起きたら、右の顔だけ全然動かなくて

それは心配だね
口から水がこぼれたり、目が閉じにくかったりしないかい?

まさにそれです!
うがいすると右からダラーって…
最近残業続きで、夜は冷房ガンガンで寝ちゃってました

疲れと冷えがたまっていたんだね
ちょっと表情の検査をさせてもらうね

じゃあ、おでこに思いっきりシワを寄せてみてくれる?

んんん…!
右側だけシワが寄らないです

額のシワ寄せができない=おでこも麻痺している
これは中枢性じゃなく「末梢性」の顔面神経麻痺だね

末梢性…?
中枢性とどう違うんですか?

いい質問だね!
まずは顔面神経がどんな神経か、一緒におさらいしようか
顔面神経ってどんな神経?
顔面神経は脳神経のひとつで、3種類の線維が混じった混合神経です。
① 運動神経線維:表情筋を支配する
② 知覚神経線維:舌の前2/3の味覚を支配する
③ 副交感神経線維:涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌を支配する
この3つを覚えておくと、麻痺したときに「表情が動かない」「味がわからない」「涙や唾液が出にくい」といった症状が出る理由が見えてくるよ。
(図1:顔面神経の支配 ※画像準備中)
顔面神経の走行
運動線維:顔面神経核から起こり、側頭骨岩様部の顔面神経管を通って、茎乳突孔(けいにゅうとつこう)から頭蓋外に出て表情筋を支配する。茎乳突孔を出た後は、後耳介神経や顎二腹筋後腹などへ枝を出し、耳下腺神経叢から側頭枝・頬骨枝・頬筋枝・下顎縁枝・頸枝に分かれる。
知覚線維:膝神経節(しつしんけいせつ)の中にあり、孤束核に終わる。味覚は鼓索神経から舌神経に入り、舌の前2/3を担当する。
副交感線維:鼓索神経→舌神経を経由して顎下神経節に入り、顎下腺・舌下腺を支配する。もう一方は膝神経節から大錐体神経を経由して翼口蓋神経節に入り、涙腺を支配する。
ポイントは、体表からアプローチできるのは運動神経線維だけということ。運動線維が茎乳突孔から頭蓋外に出てくるので、そこを狙うんだ。

茎乳突孔…!
その場所ってどこを刺すんですか?

経穴でいうと、みんな大好き「翳風(えいふう)」のあたりだよ
刺鍼部位を詳しく見ていこう
刺鍼部位(茎乳突孔=翳風穴)
場所:耳垂(耳たぶ)の後方で、側頭骨乳様突起の前縁と下顎骨下顎枝後縁との間。
目印:乳様突起の先端の前方0.5cm。経穴では翳風穴に相当する。
狙い:体表から触れる運動神経線維(茎乳突孔から出てくる部分)にアプローチする。
(図2:顔面神経刺鍼の部位 ※画像準備中)
刺鍼操作と使用鍼
使用鍼:特別な指定はないが、16号鍼くらいの細い鍼がよい。鍼通電療法を行う場合は20号鍼程度を使う。
刺し方:刺鍼部位(乳様突起の先端より0.5cm前方)の1横指下から、茎乳突孔へ内上方に向けて、乳様突起にはわせるように刺鍼する。茎乳突孔には無理に刺入しない。
深度:約1〜2cm程度。
鍼通電の場合:この部位を陰極(陽極は肩上部などの別の部位)として通電すると、表情筋の収縮が確認できる。
注意点・禁忌・適応
注意点:疼痛様の感覚が生じる場合は刺し直す。茎乳突孔に無理に刺入せず、深刺は慎む。無理に刺入すると神経障害を引き起こすおそれがある。
禁忌:高熱や感染症などの状態にあるときは行わない。刺鍼部位の皮膚に炎症所見などがある場合は注意して行う。
適応:主として末梢性顔面神経麻痺に応用される。顔面痙攣にもしばしば用いられる。

東洋医学では、顔面の麻痺は「風(ふう)」の邪が顔の経絡に入ったと考えるよ
翳風のほかに、四白・地倉・頬車・陽白・攅竹など顔の経穴も使っていくね

お願いします!
笑えるようになりたいです…!

大丈夫、焦らず一緒にやっていこう
それじゃあ施術していくよ〜
(施術シーン ※画像準備中)
一週間後・・・

先生!
口元が少しずつ動くようになってきました!
うがいの水もこぼれにくくなって…!

いい変化だね!
顔面神経麻痺は焦りは禁物。睡眠と保温を大事にしながら、コツコツ続けていこう

はい!
アフロ先生、ありがとうございます(^^)
顔面神経刺鍼法のまとめ
顔面神経は運動・知覚・副交感の線維を含む混合神経。表情筋(運動)、舌前2/3の味覚(知覚)、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌(副交感)を支配する。
体表からアプローチできるのは運動神経線維のみで、刺鍼部位は茎乳突孔=翳風穴(乳様突起の先端の前方0.5cm)。
刺鍼は乳様突起にはわせるように内上方へ、深度1〜2cm。茎乳突孔への無理な刺入・深刺は神経障害のおそれがあるので避ける。鍼通電では患部を陰極にすると表情筋の収縮が確認できる。
適応は末梢性顔面神経麻痺と顔面痙攣。高熱・感染症・刺鍼部の炎症があるときは行わない。


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