新人治療家の鍼太郎くん。脳卒中の後遺症で肩から腕にかけてのしつこい痛み(肩手症候群)に悩む患者さんを担当することになりました。いつもの肩や腕への鍼ではどうにも痛みが引かず、すっかり煮詰まってしまった鍼太郎くん。そんな時、頼れる先輩・アフロ先生に相談すると、聞き慣れない「あるアプローチ」を教えてもらえることに…。果たして頑固な腕の痛みの突破口とは!?

アフロ先生…脳卒中後の肩手症候群の患者さん、腕の痛みが全然とれなくて
肩も腕もほぐしてるんですけど…

あぁ、ああいう頑固な痛みは手強いよねぇ
そういう時は「首の交感神経」にアプローチしてみるといいよ

首の交感神経…?
痛いのは腕なのに、首ですか?

そう、「頸部交感神経刺鍼法」っていうんだ
まずは首の交感神経のしくみからおさらいしよう!
頸部交感神経節の解剖
頸部交感神経節は上頸神経節・中頸神経節・下頸神経節の3つからなる。そして下頸神経節は第1胸交感神経節と融合して「星状神経節」になる。
上頸神経節:頭蓋底の下方にあり、髄膜・眼・頭部の領域を支配する。特に眼では上瞼板(じょうけんばん)と眼窩筋を支配し、障害されると上眼瞼の下垂と眼球の陥没が起こる(ホルネル症候群の要素)。
中頸神経節:第4頸椎の高さにあるが、欠如することもある。主に頭部の領域を支配する。
星状神経節:第1肋骨の内面の骨頭付近にあり、交感神経として頭部・頸部・上肢、そして心臓や肺の領域を支配する。だから首にアプローチすると、腕の痛みにも効いてくるんだね。
(図1 頸部交感神経節〔上頸・中頸・星状神経節とC6・C7・T1・第1肋骨の位置関係〕の画像 ※画像準備中)

星状神経節!
「星状神経節ブロック」ってよく聞きますけど、それと同じですか?

いいところに気づいたね!
実はそこ、ちょっとした「名前のカラクリ」があるんだ
実は「星状神経節」刺鍼ではない!?
「星状神経節ブロック」は通常、第6頸椎横突起あるいは第7頸椎横突起の基部に針を進めて薬液を注入する方法。ところが…解剖学的には星状神経節はこの部位には存在しない(星状神経節は第1肋骨の内面の骨頭付近にある)。
つまり従来「星状神経節ブロック(刺鍼)」と呼ばれてきたものは、正しくは「頸部交感神経ブロック(刺鍼)」と称されるべきもの、というわけ。名前は有名だけど、実際に刺激しているのは星状神経節そのものではなく、その上方の頸部交感神経なんだね。

えっ、名前と実際の場所が違うんですね!
知らなかった…で、どこに刺すんですか?
体表面上の刺鍼部位
基準点:刺鍼部位は胸鎖関節より2.5cm上方で、正中線より1.5cm外側。ここが第7頸椎横突起部にあたる。
もう一つの選択肢:そのさらに上方にある第6頸椎横突起部を狙う方法もある。どちらか一方を選べばOK。
安全面のポイント:気胸などの安全性を考えると、より上方(肺から遠い)の第6頸椎横突起への刺鍼のほうが安全。
(図2 頸部交感神経の刺鍼部位〔胸鎖関節から2.5cm上方・正中から1.5cm外側/C6・C7横突起〕の画像 ※画像準備中)

でも先生…その辺りって
頸動脈がすぐ近くを通ってますよね?こわい…

その通り、そこが一番大事なところ
だからこそ「押手の使い方」と「手順」をきっちり覚えよう
刺鍼操作と使用鍼
使用鍼:特別な指定はないが、18号あるいは20号鍼(やや太め)を用いる。
体位:通常は背臥位で枕をはずして行う。刺鍼部位を触診すると頸動脈の拍動を触れる。
刺入:押手で頸動脈を外側に押し寄せ、鍼は皮膚に垂直に刺入して第7頸椎横突起(または第6頸椎横突起)にぶつける。前述のとおり、安全面では第6頸椎横突起がおすすめ。
刺激:鍼が横突起に触れたのを確認したら、鍼を少し上に引き上げ、ゆっくりと小さな雀啄刺激を行う。うまくいくと顔面部や上肢の血管が拡張して熱感が出たり、散瞳がみられることもある。なお粗暴な雀啄術は慎むこと。
刺鍼時の注意点と禁忌
一般的注意点:ズキッとした疼痛様の得気が出る場合は、神経そのものに当たっているサインなので刺し直す。頸部交感神経のすぐ外側を頸動脈が走行しているので、必ず拍動を確認し、その内側に刺入して頸動脈への刺鍼を避ける。
禁忌:鍼治療の一般的禁忌と同じく、高熱や感染症などの状態にあるときは行わない。また刺鍼部位の皮膚に炎症所見などがある場合は注意して行う。

なるほど…!
これって、うちの患者さんみたいな痛み以外にも使えるんですか?

うん、けっこう守備範囲が広いんだ
代表的な適応をまとめておくね
頸部交感神経刺鍼の適応
基本は顔面および上肢の頑迷(がんめい)な痛みに応用される。たとえば…
・頸椎症の神経根型
・上肢のヘルペス後神経痛
・脳卒中後遺症の肩手症候群
さらに、顔面神経麻痺・鼻アレルギー・脱毛症などにも応用される。交感神経を介して血流や自律神経のバランスに働きかけるからこそ、痛み以外にも幅広く使えるんだね。

首がこんなにいろんな所とつながってるなんて…!
解剖と手順をしっかり頭に入れて、安全第一でやってみます!

その意気だ!
頸動脈の拍動を確認して、内側にていねいに…焦らずいこう!
――数日後。鍼太郎くんは、例の肩手症候群の患者さんに、アフロ先生直伝の頸部交感神経刺鍼法を実践することに。教わったとおり、頸動脈の拍動をていねいに確認し、その内側へ慎重に鍼を進めて、第6頸椎横突起へ。鍼が骨に触れたのを確かめ、少し引き上げて、ごく小さな雀啄を…。

先生、聞いてください!
あの患者さん、施術のあと「腕がポカポカして軽くなった」って!

何週間もとれなかったあの痛みが、だいぶ和らいだんです!
顔まわりもポカポカするって喜んでました!

やったじゃないか!
頸動脈をちゃんと避けて、安全第一でやり切ったのが一番えらいよ

アフロ先生のおかげです!
首から全身につながってるなんて…鍼って奥が深いですね!

その調子!
一つひとつ、患者さんと一緒に経験を積んでいこうね
頸部交感神経刺鍼法のまとめ
頸部交感神経節は上頸・中頸・下頸の3つ。下頸神経節と第1胸交感神経節が融合したものが星状神経節で、頭頸部・上肢・心臓・肺を支配する。
よく聞く「星状神経節ブロック」は、解剖学的にはその部位に星状神経節がないため、正しくは「頸部交感神経ブロック(刺鍼)」。
刺鍼部位は胸鎖関節の2.5cm上方・正中の1.5cm外側=第7頸椎横突起部、またはその上方の第6頸椎横突起部(気胸を避ける意味では第6が安全)。18〜20号鍼・背臥位枕なしで、押手で頸動脈を外側に寄せ、拍動の内側に垂直刺入し横突起にぶつけ、少し引き上げて小さな雀啄を行う。
適応は頸椎症の神経根型・上肢のヘルペス後神経痛・脳卒中後遺症の肩手症候群などの頑迷な痛みのほか、顔面神経麻痺・鼻アレルギー・脱毛症にも。頸動脈への刺鍼回避と高熱・感染症・刺鍼部の炎症は禁忌という安全管理を忘れずに。


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