このページは悪心・嘔吐を東洋医学の病態(弁証)と鍼灸治療(治法・配穴)の視点から整理したページです。東洋医学では悪心・嘔吐の基本病態は「胃気上逆」=本来下降すべき胃の気が上に逆流することと捉えます。内関を中心に、病証に応じて経穴を選び、体質に合わせて補法・瀉法を使い分けるのが治療の骨格です。
| 読み方 | おしん・おうとのびょうたいとちりょう |
|---|---|
| 基本病態 | 胃気上逆(本来は下降する胃の気が上に逆流し、悪心・嘔吐が起こる) |
| 主な病証(弁証) | 外邪犯胃(外感病)・飲食停滞(食滞胃脘)・肝気犯胃(肝胃不和)・胃気上逆・胃熱熾盛(胃熱上逆)・痰湿中阻(痰飲)・脾胃虚弱・瘀血内阻・腎陰不足・脾気虚・脾陽虚・腎陽虚・胃陰虚・陰虚火旺・肝鬱気滞・気逆上衝 |
| 代表的な治法 | 解表・和胃/消食導滞/疏肝理気/健脾和胃・益気/化痰燥湿(去痰化湿)/清胃瀉火/活血化瘀/滋陰養胃・滋陰清熱/和胃降逆・降逆止嘔 |
| よく使う経穴 | 内関・中脘・足三里・公孫・陰陵泉・太渓・期門・肝兪・脾兪(+太衝・豊隆・合谷・内庭・大横・天枢・血海・膈兪・三陰交・復溜・関元・命門・腎兪・百会) |
| 特効穴 | 内関=悪心・嘔吐の特効穴(手首の内側、シワから指3本分上) |
| 鍼灸治療のポイント | 内関を中心に病証に応じた経穴を選択。刺激の強さに注意し、体質や病証に合わせて補法・瀉法を使い分ける |
| 禁忌・注意(警告徴候) | 意識障害・激しい頭痛・眼痛・めまい・耳鳴り・胸痛・強い腹痛・発熱・吐血・下血・体重減少・嚥下困難・再発性の嘔吐、原因不明の女性の嘔吐(妊娠関連)→ ただちに医療機関へ |
| 国試での狙われ方 | 基本病態=胃気上逆/病証と治法・代表穴の組み合わせ/内関の特効穴・部位/豊隆=痰、太衝=肝、内庭=胃熱、公孫=脾経の絡穴といった穴性の対応 |
東洋医学では、胃の気は本来下降するのが正常です。これが妨げられて上に逆流した状態が胃気上逆で、悪心・嘔吐の基本病態となります。したがって治法は病証がどれであっても、最終的に「和胃降逆」「降逆止嘔」に帰着するのが原則です。
なお、悪心・嘔吐は脳・眼・心臓・耳・消化器・妊娠など全身のさまざまな疾患のサインになりうるため、弁証に入る前に緊急性の除外(病態把握)が先行します。
スライドで示された10の病証ごとの症状・治法・代表穴です。国試では「治法と代表穴の組み合わせ」がそのまま問われます。表の縦の並びで覚えるのが近道です。
| 病証 | 主な症状 | 治療(治法) | 代表穴 |
|---|---|---|---|
| ① 外邪犯胃 | 悪心・嘔吐、悪寒・発熱、頭痛・身重 | 解表・和胃 | 合谷・内関・中脘 |
| ② 飲食停滞 | 食後の悪心、腹部膨満、げっぷ | 消食導滞・和胃降逆 | 中脘・大横・足三里 |
| ③ 肝気犯胃 | ストレスで悪化、胸脇部の張り、ため息が多い | 疏肝理気・和胃降逆 | 太衝・内関・中脘 |
| ④ 胃気上逆 | のどの違和感、嘔吐・酸水、げっぷ | 疏逆止嘔・和胃降逆 | 内衝・内関・公孫 |
| ⑤ 胃熱熾盛 | 口渇・口臭、嘔吐・便秘、心煩 | 清胃瀉火・降逆止嘔 | 内庭・合谷・中脘 |
| ⑥ 痰湿中阻 | 頭重・胸悶、悪心・嘔吐、食欲不振 | 燥湿化痰・和胃降逆 | 豊隆・内脘・陰陵泉 |
| ⑦ 脾胃虚弱 | 食後に悪心、倦怠感・軟便、顔色不良 | 健脾和胃・益気升提 | 足三里・脾兪・中脘 |
| ⑧ 瘀血内阻 | 刺すような痛み、嘔吐・胸痛、舌に瘀点 | 活血化瘀・降逆止痛 | 血海・膈兪・内関 |
| ⑨ 腎陰不足 | 口乾・ほてり、悪心・嘔吐、午後に悪化 | 滋陰降火・和胃降逆 | 三陰交・太渓・中脘 |
| ⑩ 総合的な治療 | 証を見極め、鍼灸・食事・生活指導・セルフケアを組み合わせて根本改善 | — | 内関・足三里・中脘 |
同じ悪心・嘔吐でも、教科書や整理の仕方によって病証名の切り方が変わります。スライドでは8分類と6分類のパターンも示されています。名称が変わっても「原因を除く治法+和胃降逆」という骨格は共通です。
■ 8分類(病態と治療ポイント)
| 病態 | 症状 | 治療 | 代表穴 |
|---|---|---|---|
| ① 脾気虚 | 食欲不振・悪心・嘔吐、倦怠感・軟便など | 健脾益気・和胃降逆 | 足三里・中脘・脾兪 |
| ② 脾陽虚 | 冷え・悪心・嘔吐、腹部膨満・下痢など | 温中健脾・和胃降逆 | 関元・天枢・中脘 |
| ③ 胃気不和 | 脹満感・悪心・嘔吐、げっぷ・食後悪化など | 理気和脾・降逆止嘔 | 中脘・内関・太衝 |
| ④ 胃熱上逆 | 口渇・嘔吐・口臭、便秘・イライラなど | 清胃瀉火・降逆止嘔 | 内庭・合谷・中脘 |
| ⑤ 肝気犯胃 | 嘔気・嘔吐・胸脇苦満、イライラ・ため息など | 疏肝理気・和胃降逆 | 太衝・内関・中脘 |
| ⑥ 痰湿中阻 | 胸やけ・悪心・嘔吐、頭重・体が重だるいなど | 化痰燥湿・和胃降逆 | 豊隆・内脘・天枢 |
| ⑦ 瘀血内阻 | 刺すような痛み・嘔吐、血塊・固定痛など | 活血化瘀・和胃降逆 | 膈兪・血海・内関 |
| ⑧ 気逆上衝 | 突然の嘔吐・頭痛、めまい・動悸など | 降逆止嘔・鎮逆安神 | 百会・内関・足三里 |
臨床でよく使われる6分類パターンです。外感病=解表、食滞胃脘=消食導滞、肝胃不和=疏肝理気、脾胃虚弱=健脾和胃、痰飲=去痰化湿(化痰降逆)、胃陰虚・陰虚火旺=滋陰清熱(滋陰養胃)という対応をセットで覚えます。
| 病証 | 主な症状 | 治療 | 代表穴 |
|---|---|---|---|
| ① 外感病による悪心・嘔吐 | 発熱・悪寒・頭痛・悪心、表証が多い | 解表・和胃 | 合谷・内関・足三里 |
| ② 食滞胃脘による悪心・嘔吐 | 暴飲暴食後、腹部膨満、げっぷ・悪臭のある嘔吐、食欲不振 | 消食導滞・和胃降逆 | 中脘・大横・公孫 |
| ③ 肝胃不和による悪心・嘔吐 | ストレスで悪化、胸脇部の張りや痛み、胃痛・嘔気 | 疏肝理滞・和胃降逆 | 太衝・内関・期門 |
| ④ 脾胃虚弱による悪心・嘔吐 | 食後の悪心・倦怠感、食欲不振・軟便・下痢、顔色不良 | 健脾和胃・益気 | 足三里・脾兪・中脘 |
| ⑤ 痰飲による悪心・嘔吐 | のどに痰が絡む・胸が重い、むかつき・頭が重い、舌苔が厚い | 化痰降逆・和胃 | 豊隆・中脘・陰陵泉 |
| ⑥ 胃陰虚による悪心・嘔吐 | 口渇・ほてり・空腹感があっても食べられない、寝汗・心煩・不眠、舌紅・少苔 | 滋陰養胃・降逆 | 三陰交・太渓・内関 |
脾・腎・肝の虚実に注目した分類では、主穴が明確に整理されています。とくに関元・命門は温補(脾陽虚・腎陽虚)、太渓・復溜・三陰交は滋陰(胃陰虚・陰虚火旺)と、方向性で分かれる点が重要です。
| 病証 | 主な特徴 | 治療(治法) | 主穴 |
|---|---|---|---|
| 脾気虚 | 食欲不振、疲労感、軟便・下痢、顔色不良 | 健脾益気 | 中脘・足三里・脾兪 |
| 脾陽虚 | 冷え・むくみ、慢性下痢、手足の冷え、疲れやすい | 温補脾陽 | 関元・命門・脾兪 |
| 腎陽虚 | 腰や膝のだるさ、下半身の冷え、夜明け前の下痢、むくみ | 温補腎陽 | 関元・命門・腎兪 |
| 胃陰虚 | 口渇・空腹感、ほてり・寝汗、乾燥感、食べても満たされない | 滋陰養胃 | 陰陵泉・太渓・復溜 |
| 陰虚火旺 | 頬のほてり、口渇・イライラ、不眠・寝汗、便秘 | 滋陰清熱 | 太渓・復溜・三陰交 |
| 肝鬱気滞 | ストレスで悪化、胃痛・悪心、胸脇部の張り、便通異常 | 疏肝理気 | 肝兪・期門・太衝 |
配穴を丸暗記するより、それぞれの経穴が何をしているか(穴性)を押さえると病証との対応が見えてきます。スライドに示された経穴の効果は次のとおりです。
| 経穴 | 効果(スライド記載) |
|---|---|
| 内関 | 悪心・嘔吐の特効穴(手首の内側、シワから指3本分上) |
| 中脘 | 胃の調整、胃気の下降 |
| 足三里 | 胃腸機能の改善 |
| 公孫 | 脾経の絡穴、嘔吐に有効 |
| 陰陵泉 | 去湿・健脾、悪心に有効 |
| 太渓 | 滋陰養腎、虚熱を改善 |
治療法の基本は、原因病態に対する6つの方向性で整理されます。
ただし鍼灸を始める前に、緊急性のある疾患の除外が必須です。悪心・嘔吐は脳・眼・心臓・耳・消化器・妊娠など全身の疾患のサインになりうるため、問診・身体診察・検査による鑑別が前提になります。
1つでも当てはまる場合は、鍼灸で経過を見ずにただちに医療機関へ紹介します。治療は原因疾患に合わせ、薬物療法・止血・補液・鎮静などを適切に組み合わせて対応されます。