脊髄損傷では麻痺そのものよりも合併症の予防と管理が予後を左右します。急性期は褥瘡・尿閉(脊髄ショック)・起立性低血圧・体温調節障害、慢性期は尿路合併症・便秘・自律神経過反射・痙縮・拘縮・骨萎縮・異所性骨化が問題になります。国試では「T6以上で自律神経過反射」「血圧上昇なのに徐脈」「留置カテーテルは早期抜去し間欠導尿へ」といった組み合わせが繰り返し狙われます。
| 読み方 | せきずいそんしょうのがっぺいしょう |
|---|---|
| 主な原因・病態 | 交通事故・転落・転倒などによる脊髄の損傷。運動麻痺・感覚障害に加え、自律神経障害(血圧・体温・排尿排便)を伴う |
| 急性期に多い合併症 | 褥瘡、尿閉(脊髄ショック)、起立性低血圧、体温調節障害(うつ熱)、深部静脈血栓症 |
| 慢性期に多い合併症 | 尿路感染・尿路結石・腎盂腎炎、便秘、自律神経過反射、痙縮、関節拘縮、骨萎縮、異所性骨化、肺合併症、心理的問題 |
| 急性期の対応 | 2時間ごとの体位変換と除圧・毎日の皮膚観察、留置カテーテルは早期抜去して間欠導尿へ、腹帯+座位・斜面台訓練で起立性低血圧を予防、室温と衣服で体温を調整 |
| 回復期・慢性期の訓練 | 関節可動域訓練・ストレッチ、痙縮コントロール、自己導尿の指導、排便習慣づけ(胃結腸反射の利用)+緩下薬・坐薬、車椅子プッシュアップによる除圧 |
| 禁忌・注意点 | 自律神経過反射は高血圧性脳出血をきたす救急事態。T6(第6胸髄)以上の損傷で起こりやすく、膀胱充満・便秘・褥瘡が誘因。まず座位にして誘因を除去する |
| 国試での狙われ方 | 褥瘡好発部位、脊髄ショック期の膀胱(弛緩性=尿閉)、自律神経過反射の症状(血圧上昇・頭痛・徐脈・発汗)と高位、起立性低血圧の対策、異所性骨化 |
脊髄損傷のリハビリテーションは、残存機能を活かしたADL訓練と同じくらい、合併症予防が重要です。感覚が脱失しているため痛みという警告信号が働かず、自分で体位を変えることもできないため、放置すると短時間で不可逆的な障害が積み重なります。
これら3本柱がそのまま国試の出題軸になります。
脊髄損傷では①痛みがわからない ②自分で体位変換できない ③持続圧迫による血流障害の3条件がそろうため、褥瘡が極めて起こりやすくなります。放置すれば感染から敗血症・骨髄炎へ重症化します。
予防の基本は体位変換・除圧・皮膚観察の3点セット。ベッド上ではおおむね2時間ごとの体位変換、車椅子では10〜15分ごとのプッシュアップ(除圧)、エアマットやクッションの活用、そして毎日の皮膚チェックが欠かせません。
| 場面 | 好発部位 | 対策 |
|---|---|---|
| 背臥位 | 仙骨部・踵骨部・後頭部・肩甲骨部 | 2時間ごと体位変換、エアマット、踵の浮かせ |
| 側臥位 | 大転子部・外果・腸骨稜 | 30度側臥位、クッションで挟む |
| 腹臥位 | 膝蓋部・腸骨前面・肋骨部 | 除圧クッション、短時間から開始 |
| 座位(車椅子) | 坐骨結節部・尾骨部 | 10〜15分ごとのプッシュアップ、除圧クッション |
受傷直後の脊髄ショック期では、損傷高位以下のすべての反射が消失し、膀胱も弛緩性(無反射)となって尿閉をきたします。まずは尿路の減圧のため留置カテーテルを用いますが、留置期間が長引くほど尿路感染・尿路結石のリスクが上がるため、全身状態が安定したら早期に抜去し間欠導尿(自己導尿)へ移行するのが原則です。
| 時期・病態 | 膀胱の状態 | 主な管理 |
|---|---|---|
| 脊髄ショック期 | 弛緩性・無反射 → 尿閉 | 留置カテーテルで減圧(早期抜去を目指す) |
| 回復後・核上型 | 反射性(自動性)膀胱・排尿筋過活動 | 間欠導尿+抗コリン薬、排尿誘発法 |
| 核・核下型(円錐部・馬尾) | 弛緩性膀胱・溢流性尿失禁 | 間欠導尿、腹圧排尿(適応に注意) |
損傷高位以下では交感神経が働かないため、起き上がると下肢・腹部に血液が貯留し起立性低血圧が生じます。めまい・ふらつき・意識消失をきたすため、早期からの予防が大切です。
また発汗機能が障害されるため体温調節障害を生じ、高温環境ではうつ熱(高体温)、寒冷環境では低体温に陥りやすくなります。空調・衣服・寝具での環境調整がそのまま治療になります。
| 症状 | 機序 | 対応 |
|---|---|---|
| 起立性低血圧 | 交感神経遮断による血管収縮不全・静脈還流低下 | 腹帯、弾性ストッキング、座位訓練、斜面台訓練 |
| うつ熱(高体温) | 損傷高位以下の発汗消失で放熱できない | 室温を下げる、送風、冷却、水分補給 |
| 低体温 | 血管収縮・ふるえ産熱の障害 | 保温、衣服・寝具の調整 |
脊髄損傷では腸管運動と肛門括約筋の制御が障害され、便秘・便失禁が問題となります。管理の基本は習慣づけで、規則正しい食事と食物繊維・水分、胃結腸反射を利用して食後に排便介助を行い、必要に応じて緩下薬・便軟化薬、坐薬・浣腸、摘便を組み合わせます。
そして最も注意すべき救急病態が自律神経過反射(自律神経過緊張反射)です。おおむねT6(第6胸髄)以上の損傷者で、損傷高位以下への侵害刺激をきっかけに交感神経が暴走し、急激な血圧上昇・拍動性頭痛・顔面紅潮・発汗が起こる一方、頸動脈洞反射により徐脈となるのが特徴です。放置すれば高血圧性脳出血や痙攣に至ります。
脊髄ショックを脱すると腱反射が亢進し痙縮が出現します。痙縮と不動が続けば関節拘縮となり、車椅子移乗や更衣を妨げます。さらに荷重刺激の消失により骨萎縮(廃用性骨粗鬆症)が進み、わずかな外力で骨折します(感覚脱失のため気づきにくい)。
| 合併症 | 特徴 | 対策 |
|---|---|---|
| 痙縮 | 脊髄ショック後に腱反射亢進・筋緊張亢進 | ストレッチ、装具、抗痙縮薬、神経ブロック |
| 関節拘縮 | 不動と痙縮による軟部組織短縮 | 関節可動域訓練、良肢位保持 |
| 骨萎縮 | 荷重刺激の消失による骨量減少、易骨折 | 立位・荷重訓練、無理な他動運動を避ける |
| 異所性骨化 | 股・膝関節周囲の軟部組織に骨形成、可動域制限 | 早期発見、過度な強制的ROM訓練を避ける |
| 肺合併症 | 頸髄損傷での呼吸筋麻痺・排痰困難 | 呼吸理学療法、排痰介助、体位ドレナージ |