このページは胸痛を「東洋医学的にどう弁証し、どう治すか」に絞って解説します(西洋医学的な胸痛の鑑別診断そのものは臨床医学系ページが担当)。胸痛の弁証は気滞血瘀・心陽虚・痰湿阻滞の3証が軸で、それぞれ痛みの性質・随伴症状・治法・代表方剤がきれいに対応します。ただし鍼灸を行う前に心筋梗塞・大動脈解離・肺塞栓・緊張性気胸などの緊急疾患を必ず除外するのが大前提です。
| 読み方 | きょうつうのかんべつととうよういがく |
|---|---|
| 定義 | 胸部に生じる痛み。東洋医学では気・血・陽気・痰湿の失調により胸中の巡りが妨げられて生じると考える |
| 主な証(弁証) | 気滞血瘀(きたいけつお)/心陽虚(しんようきょ)/痰湿阻滞(たんしつそたい)の3証 |
| 随伴症状 | 気滞血瘀=固定性の刺すような痛み・胸脇が張る・イライラしやすい・ため息が多い/心陽虚=胸悶・圧迫感・動悸・息切れ・倦怠感・疲れやすい・冷え・手足が冷たい/痰湿阻滞=胸のつかえ・重だるさ・悪心・吐き気・痰が多い・呼吸促迫・息苦しい |
| 治法 | 気滞血瘀=気の巡りを良くし血行を改善する(疏肝理気・活血化瘀)/心陽虚=心陽を温め気血を補う(温陽益気・補益心気)/痰湿阻滞=痰湿を取り除き脾を健やかにする(化痰利湿・理気) |
| 代表的な漢方 | 気滞血瘀=柴胡疏肝湯・血府逐瘀湯/心陽虚=炙甘草湯・真武湯/痰湿阻滞=半夏厚朴湯・二陳湯(いずれもスライド記載) |
| 原因(誘因) | 気滞血瘀=ストレス・怒りや抑うつ・気の巡りの停滞・血行不良/心陽虚=過労・加齢・久病・心陽の不足/痰湿阻滞=暴飲暴食・脂っこい食事・脾の運化機能低下・痰湿の内生 |
| 禁忌・注意(危険な兆候) | 血圧低下、頻脈・徐脈、意識レベル低下、強い呼吸困難、冷汗、悪心・嘔吐・発熱・激しい不安感・胸部圧迫感。突然の激しい胸痛や長時間続く痛みは心筋梗塞・大動脈解離・肺塞栓・緊張性気胸を疑い速やかに医療機関へ |
| 国試での狙われ方 | 痛みの性質(刺痛・胸悶・つかえ)と証の対応、治法用語(疏肝理気/温陽益気/化痰利湿)、誘因(ストレス・過労・暴飲暴食)と証の結び付け、鍼灸の適応・不適応(危険な疾患の除外) |
スライドでは胸痛の東洋医学的病態を気滞血瘀・心陽虚・痰湿阻滞の3つに整理しています。国試では「痛みの性質+随伴症状+誘因」から証を選ばせる形で問われるため、下表の縦の対応をそのまま覚えるのが最短です。
ポイントは、刺すような固定性の痛み=瘀血、胸悶・圧迫感+冷え=陽虚、つかえ・重だるさ+痰=痰湿という痛みのキャラクターの違いです。
| 証 | 病機(成り立ち) | 特徴的な症状 | 原因・誘因 |
|---|---|---|---|
| 気滞血瘀(きたいけつお) | ストレスや情志の失調により、気の巡りが滞り、血の流れが悪くなることで胸痛が生じる状態 | 固定性の刺すような痛み/胸の脇が張る/イライラしやすい/ため息が多い | ストレス、怒りや抑うつ、気の巡りの停滞、血行不良 |
| 心陽虚(しんようきょ) | 過労や久病により心の陽気が不足し、心の働きが弱くなることで胸痛が生じる状態 | 胸悶・圧迫感/動悸・息切れ/倦怠感・疲れやすい/冷え・手足が冷たい | 過労、加齢、久病、心陽の不足 |
| 痰湿阻滞(たんしつそたい) | 飲食不節や脾の不調により痰湿が体内に停滞し、気の巡りを妨げて胸痛が生じる状態 | 胸のつかえ・重だるさ/悪心・吐き気/痰が多い/呼吸促迫・息苦しい | 暴飲暴食、脂っこい食事、脾の運化機能低下、痰湿の内生 |
各証の「対策・治療の考え方」と、スライドに挙げられた代表的な漢方をまとめます。治法の四字熟語と方剤名の組み合わせは選択肢問題で頻出です。なお本スライドには具体的な配穴(経穴名)の記載はありません。記憶で経穴を補うのは危険なので、配穴は各自の教科書で確認してください。
| 証 | 治療の考え方 | 治法 | 代表的な漢方(スライド記載) |
|---|---|---|---|
| 気滞血瘀 | 気の巡りを良くする/血行を改善する | 疏肝理気・活血化瘀の治療 | 柴胡疏肝湯、血府逐瘀湯など |
| 心陽虚 | 心陽を温める/気血を補う | 温陽益気・補益心気の治療 | 炙甘草湯、真武湯など |
| 痰湿阻滞 | 痰湿を取り除く/脾を健やかにする | 化痰利湿・理気の治療 | 半夏厚朴湯、二陳湯など |
スライドは「鍼灸治療を行う前に、緊急性の高い疾患を除外します」と明示しています。東洋医学的な弁証に入る前段として、まず西洋医学的な危険信号を拾うことが鍼灸師の責務であり、これが鍼灸の適応・不適応の判断そのものです。
注意すべきバイタルサイン・危険な随伴症状は次のとおりです。
| 危険な兆候 | 意味するもの |
|---|---|
| 血圧低下 | めまい・失神のリスク |
| 頻脈・徐脈 | 動悸・不整脈の危険 |
| 意識レベル低下 | 反応が鈍い・意識がもうろう |
| 強い呼吸困難 | 酸素不足のサイン |
| 冷汗 | ショックや循環不全の可能性 |
| その他の危険症状 | 悪心・嘔吐・発熱・激しい不安感・胸部圧迫感 |
証を立てるにも、危険を除外するにも、出発点は問診です。スライドは胸痛の確認項目として次を挙げています。東洋医学的にも、誘因(ストレスか・過労か・飲食か)と痛みの性質がそのまま弁証の手がかりになります。
また胸痛の原因は心臓・肺・胸膜・食道・神経など多岐にわたり、心疾患(狭心症・心筋梗塞など)、呼吸器疾患(気胸・肺癌・肺炎など)、胸膜の疾患(胸膜炎・自然気胸など)、食道の疾患(逆流性食道炎・食道痙攣など)、神経の疾患(帯状疱疹後神経痛・肋間神経痛など)に大別されます。
再発予防では、生活習慣の改善と東洋医学的な養生を組み合わせます。養生の内容が証と対応している点に注目してください。
すなわち、ストレス管理は気滞血瘀、保温は心陽虚、飲食の節制は痰湿阻滞への対策です。鍼灸治療で自然治癒力を高め、根本改善をめざす、というのがスライドの結論です。
| 証 | 東洋医学によるサポート(改善の狙い) |
|---|---|
| 気滞血瘀の改善 | ストレス緩和・巡りを良くし、胸の刺すような痛みをケア |
| 心陽虚の改善 | 体を温め、心陽を補い、疲れやすさや冷えを改善 |
| 痰湿の改善 | 余分な水分や痰を取り除き、胸のつかえをスッキリ |