歩き方を観察するだけで、原因の特定(診断)・機能の客観的評価・治療方針の決定に役立つ多くの情報が得られます。異常歩行は疼痛・筋麻痺・中枢神経障害・心因性など、さまざまな原因で起こります。
国家試験では「異常歩行の名前 ⇔ 麻痺している筋・障害部位」の組み合わせが繰り返し問われます。ここでは代表的な10種類を、原因と見た目の特徴でセットにして覚えられるよう整理しました。
| 読み方 | いじょうほこう |
|---|---|
| 定義 | 疼痛・筋力低下・麻痺・失調などにより正常な歩行パターンが崩れた状態 |
| 観察の意義 | 診断(原因の特定)・評価(機能の客観化)・治療方針/リハ計画の立案に役立つ |
| 主な原因 | 疼痛、末梢神経麻痺(筋力低下)、中枢神経障害(錐体路・小脳・錐体外路)、心因性 |
| 最も多い異常歩行 | 疼痛性跛行(痛みのため患側の立脚相が短くなる) |
| 代表的な種類 | 疼痛性跛行・鶏歩・トレンデレンブルグ歩行・大殿筋歩行・らくだ歩行・痙性(はさみ足)歩行・失調性歩行・前方突進・片麻痺(ぶん回し)歩行・ヒステリー歩行 |
| 国試での狙われ方 | 歩行名と「麻痺筋・障害部位・疾患」の組み合わせ、および立脚相/遊脚相のどちらに異常が出るか |
歩行は全身の運動機能が統合された動作であり、特別な機器がなくても観察するだけで多くの情報が得られるのが特徴です。異常歩行の観察は次の3つに直結します。
異常歩行はひとつの原因だけで起こるとは限らず、疼痛・筋麻痺・中枢神経障害・心因性など多彩な背景があります。
国家試験でもっとも問われるのは「歩行名 ⇔ 麻痺筋・障害部位」の対応です。まず全体像を表で押さえましょう。
| 異常歩行 | 主な原因(麻痺筋・障害部位) | 歩行の特徴 |
|---|---|---|
| 疼痛性跛行 | 患側の疼痛(関節炎・外傷など) | 患側の立脚相が短くなる。最も多い異常歩行 |
| 鶏歩(steppage gait) | 前脛骨筋群の麻痺(足関節背屈不能・下垂足) | 膝を高く上げ、足先(つま先)から接地する |
| トレンデレンブルグ歩行 | 中殿筋の麻痺・筋力低下 | 患側で立脚したとき反対側の骨盤が下がる |
| 大殿筋歩行 | 大殿筋の麻痺 | 立脚期に体幹と骨盤を後方へ引く(重心線を股関節の後ろへ) |
| らくだ歩行(dromedary gait) | 下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の麻痺 | 足関節底屈力低下でつま先での蹴り出し(踏み切り)が弱い |
| 痙性歩行(はさみ足歩行) | 痙性麻痺(脳損傷・上位脊髄障害) | 下肢が交差して内側に入る。膝は伸展したまま |
| 失調性歩行(ataxic gait) | 小脳障害 | 歩隔が広く、ふらつき、方向転換が不安定 |
| 前方突進(propulsion) | パーキンソン病 | 前傾姿勢・小刻み歩行・すくみ足を伴い急ぎ足になる |
| 片麻痺歩行(ぶん回し歩行) | 脳血管障害(脳卒中)による片側の運動麻痺 | 麻痺側下肢を外側へぶん回す。内反尖足で踵接地しにくい |
| ヒステリー歩行 | 心因性(器質的異常なし) | 異常歩行に似るが検査で異常なし。詐病ではない |
末梢性(筋・神経)の障害で起こる代表的なグループです。どの筋が麻痺すると、どの相(立脚相・遊脚相)に異常が出るかをセットで覚えます。
痛みのある側に体重をかける時間を短くするため、患側の立脚相が短縮します。臨床で最も多くみられる異常歩行です。
前脛骨筋群の麻痺で足関節が背屈できず(下垂足)、遊脚時につま先が地面を引っかけます。これを避けるため膝を高く上げ、接地は踵ではなく足先からになります。
中殿筋(股関節外転筋)の麻痺により、患側で立脚したときに骨盤を水平に保てず、遊脚側=反対側の骨盤が下がるのが特徴。立脚期にみられる異常です。
大殿筋(股関節伸展筋)の麻痺を代償するため、立脚期に体幹と骨盤を後方へ引き、重心線を股関節の後方に位置させて股関節が屈曲方向に崩れるのを防ぎます。
下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の麻痺で足関節底屈力が低下し、つま先離地での蹴り出し(踏み切り)が弱くなります。
| 歩行 | 麻痺筋 | 異常が出る相 | キーワード |
|---|---|---|---|
| 疼痛性跛行 | (疼痛が原因) | 立脚相 | 立脚相の短縮 |
| 鶏歩 | 前脛骨筋群 | 遊脚相〜接地 | 膝を高く上げる/足先から接地 |
| トレンデレンブルグ歩行 | 中殿筋 | 立脚相 | 反対側の骨盤が下がる |
| 大殿筋歩行 | 大殿筋 | 立脚相 | 体幹・骨盤を後方へ引く |
| らくだ歩行 | 下腿三頭筋 | 踵離地〜つま先離地 | 蹴り出しが弱い |
脳・脊髄の障害では、麻痺の型や障害部位によって特徴的な歩容を示します。
| 歩行 | 障害部位・疾患 | 特徴 |
|---|---|---|
| 痙性歩行(はさみ足歩行) | 脳損傷・上位脊髄障害(痙性麻痺) | 下肢が交差し内側へ、膝は伸展位 |
| 失調性歩行 | 小脳 | 歩隔が広い・ふらつく・方向転換が不安定 |
| 前方突進 | パーキンソン病(錐体外路) | 前傾姿勢・小刻み歩行・すくみ足 |
| 片麻痺歩行 | 脳血管障害(脳卒中) | ぶん回し(外転)・内反尖足・踵接地しにくい |
器質的異常がないのに異常歩行に似た歩き方を示すものをヒステリー歩行といいます。