消化器系は、口腔から肛門まで続く約9mの消化管と、肝臓・胆嚢・膵臓という付属器官(消化腺)によって成り立っています。食べ物は口腔での咀嚼から始まり、咽頭・食道・胃・小腸・大腸を通る間に消化・吸収・排出され、その過程を肝臓の胆汁や膵臓の膵液がサポートします。本ページでは各臓器の構造と働き、国試で問われやすい数値・分類を1ページに集約して解説します。
| 消化管の全長 | 口腔から肛門まで約9m(食道約25cm+胃+小腸約6m+大腸約1.6mなどの合計) |
|---|---|
| 食道の長さと狭窄 | 長さ約25cm、生理的狭窄部が3か所(食道入口部・気管分岐部・横隔膜貫通部) |
| 胃の容量 | 約1〜1.5L、胃底部・胃体部・幽門部の3区分 |
| 小腸の全長と吸収率 | 全長約6m(十二指腸・空腸・回腸)、栄養素の約90%を小腸で吸収 |
| 大腸の全長 | 約1.6m(盲腸・結腸・直腸)、消化作用はほとんど行わず水分・電解質を吸収 |
| 肝臓の重さ | 約1,200g、人体最大の腺。右葉・左葉に分かれ右上腹部に位置 |
| 胆嚢の容量 | 約70mL、ナス形の袋で胆汁を貯蔵・濃縮(産生はしない) |
| 膵臓の構造 | 長さ約15cm・重さ約70g。外分泌部(膵液)と内分泌部(ランゲルハンス島)をもつ |
口腔から肛門まで続く消化管の壁は、部位によって細部は異なるものの、基本的に内側から粘膜・筋層・漿膜(外膜)の3層で構成されています。この共通構造を理解しておくと、以降の各臓器の話が整理しやすくなります。
筋層の運動は自律神経の指令を受けたアウエルバッハ神経叢(筋層間神経叢)が司令塔となり、収縮のリズムや強さを調整しています。また粘膜には孤立リンパ小節や、回腸に多いパイエル板(集合リンパ小節)が分布し、病原体の侵入を防ぐ腸管免疫の中心として働きます。
| 層 | 主な構成 | 主な働き |
|---|---|---|
| 粘膜 | 上皮・固有層・粘膜筋板 | 消化液の分泌・栄養の吸収・粘液による保護 |
| 筋層 | 内輪筋・外縦筋(+アウエルバッハ神経叢) | 蠕動運動・分節運動による食物の輸送と攪拌 |
| 漿膜(外膜) | 腹膜の一部 | 消化管表面を覆い摩擦を減らして保護 |
口腔は食物を取り入れ、咀嚼・嚥下・発音を行う消化器系の入口です。構造は口唇・硬口蓋(前方・骨性)・軟口蓋(後方・筋性)・舌・歯からなり、軟口蓋の後方にある口蓋垂(のどちんこ)は嚥下時に鼻腔への逆流を防ぐ役割をもちます。
舌は横紋筋でできた筋性器官で、味覚・咀嚼補助・嚥下補助・発音の4つの働きを担います。舌の表面には4種類の乳頭(糸状乳頭・茸状乳頭・有郭乳頭・葉状乳頭)があり、糸状乳頭には味蕾がなく、他の3種には味蕾が存在します。味覚の受容器は味蕾で、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5基本味を感じ取ります。味覚神経支配は舌前2/3が顔面神経(鼓索神経)、舌後1/3が舌咽神経と部位によって異なる点が頻出です(舌の一般感覚は三叉神経が支配)。
歯は食物を「切る・裂く・すり潰す」器官で、切歯(切る)・犬歯(引き裂く)・小臼歯/大臼歯(すり潰す)に役割分担されています。歯の組織は表面からエナメル質(人体で最も硬い組織)・象牙質・歯髄(血管・神経が通る)・セメント質の順に構成されます。
| 構成要素 | 特徴・働き |
|---|---|
| 口唇・硬口蓋・軟口蓋 | 食物の取り込み・発音、口蓋垂が鼻腔への逆流を防止 |
| 舌(味覚) | 味蕾で5基本味を感知。前2/3=顔面神経、後1/3=舌咽神経 |
| 舌乳頭 | 糸状(味蕾なし)・茸状・有郭(後方にV字配列)・葉状(側縁) |
| 歯 | 切歯:切る/犬歯:裂く/臼歯:すり潰す。エナメル質が最硬組織 |
咽頭は頭蓋底から食道まで続く長さ約12cmの筋性の管で、呼吸器と消化器の共通通路です。前方には鼻腔・口腔・喉頭が開口し、上咽頭(鼻腔の後方=鼻咽頭)・中咽頭(口腔の後方=口咽頭)・下咽頭(喉頭の後方から食道入口まで=喉頭咽頭)の3つに区分されます。中咽頭には口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)があります。
咽頭にはワルダイエル咽頭輪と呼ばれるリンパ組織の輪があり、口蓋扁桃・咽頭扁桃(アデノイド)・舌扁桃・耳管扁桃の4つの扁桃が輪状に配置され、抗体産生や免疫反応によって感染防御を担います。
嚥下反射では、①軟口蓋が挙上して鼻腔を閉鎖→②舌根が後上方へ移動して口腔を閉鎖→③喉頭が挙上し喉頭蓋が気道を閉鎖して誤嚥を防ぐ→④咽頭筋の収縮で食塊が食道へ送られる、という順序で嚥下時は呼吸が一時的に停止します。
なお喉頭は咽頭に続く器官で、発声と気道を守る働きをもちます。喉頭を構成する主な軟骨は、甲状軟骨(のどぼとけを形成)・輪状軟骨(気管を支える土台)・披裂軟骨(声帯の開閉を調整)・喉頭蓋軟骨(嚥下時に気道をふさぐフタ)の4つ。発声は左右の声帯が接近→呼気が声帯間を通過→声帯が振動→音声が発生、という流れで起こります。
| 区分 | 位置・特徴 |
|---|---|
| 上咽頭(鼻咽頭) | 鼻腔の後方。耳管開口部がある |
| 中咽頭(口咽頭) | 口腔の後方。口蓋扁桃が存在 |
| 下咽頭(喉頭咽頭) | 喉頭の後方〜食道入口部まで |
| 喉頭 | 甲状軟骨・輪状軟骨・披裂軟骨・喉頭蓋軟骨からなり発声と気道防御を担う |
食道は咽頭から胃へ食物を運ぶ筋性の管で、長さ約25cm、第6頸椎の高さから始まり、気管の後方を通って横隔膜の食道裂孔を通過し胃へ続きます。食物は重力に頼らず、食道の筋層が収縮・弛緩を繰り返す蠕動運動によって運ばれるため、横になっていても飲み込むことができます。
国試で頻出なのが食道の3つの生理的狭窄部です。①食道入口部(輪状軟骨の後方)、②気管分岐部(大動脈弓との交叉部)、③横隔膜貫通部(食道裂孔)の3か所で、これらは異物が引っかかりやすく、食道癌の好発部位でもあります(食道静脈瘤は下部食道にできやすい)。
| 狭窄部位 | 位置 |
|---|---|
| ①食道入口部 | 輪状軟骨の後方 |
| ②気管分岐部 | 大動脈弓との交叉部 |
| ③横隔膜貫通部 | 横隔膜の食道裂孔 |
胃は食道と十二指腸の間にある袋状の臓器で、容量は約1〜1.5L。食物を貯蔵する胃底部、消化液を分泌し混ぜ合わせる主体部分の胃体部、十二指腸へ食物を送り出す幽門部の3区分からなり、小弯・大弯をもち内面には胃ひだがあります。
胃腺からは4種類の細胞が異なる物質を分泌します。壁細胞は塩酸(HCl)を分泌して殺菌・ペプシン活性化を助け、主細胞はペプシノーゲン(ペプシン)でタンパク質を分解し、副細胞は粘液(ムチン)で胃粘膜を保護し、G細胞はガストリンを分泌して胃液分泌を促進します。この組合せは国試で頻出です。
胃の筋層は縦走筋・輪走筋・斜走筋の3層構造で、収縮によって食物と胃液を混ぜて粥状(キーム)にし、少しずつ小腸へ送り出します。幽門部では輪走筋が発達した幽門括約筋が内容物の流出量を調節し、胃内容物は約3〜6時間かけて小腸へ移動します(脂肪の多い食事ほど胃内停滞時間は長くなる)。
| 細胞 | 分泌物 | 働き |
|---|---|---|
| 壁細胞(へきさいぼう) | 塩酸(HCl) | 胃を強酸性にし殺菌、ペプシンの働きを助ける |
| 主細胞(しゅさいぼう) | ペプシノーゲン(ペプシン) | タンパク質を分解する消化酵素 |
| 副細胞(ふくさいぼう) | 粘液(ムチン) | 胃粘膜を保護し胃酸から守る |
| G細胞(Gさいぼう) | ガストリン | 胃液分泌を促進するホルモン |
小腸は胃と大腸の間にある全長約6mの消化管で、栄養素の約90%を吸収する「消化と吸収の中心」です。十二指腸(約25cm)・空腸・回腸の3部分に分かれ、十二指腸には肝臓由来の胆汁と膵臓由来の膵液が十二指腸乳頭から流入し、膵管と胆管の開口部をオッディ括約筋が調節します。
小腸粘膜には吸収効率を高める3段階の構造があります。輪状ヒダ→腸絨毛→微絨毛という段階構造により、粘膜の表面積は約200㎡(テニスコート約1面分)にまで拡大します。腸絨毛の内部には毛細血管と中心リンパ管(乳び管)が通っており、糖・アミノ酸・水溶性ビタミンは毛細血管へ、脂肪(脂肪酸・モノグリセリド)や脂溶性ビタミンは中心リンパ管へと、吸収経路が使い分けられています。
回腸には免疫機能を担うパイエル板(集合リンパ小節)が多く存在し、腸管免疫の中心として異物の監視・捕捉や抗体産生を行います。
| 部位 | 特徴 |
|---|---|
| 十二指腸 | 約25cm。膵液・胆汁が十二指腸乳頭から流入、オッディ括約筋が流れを調節 |
| 空腸 | 小腸中央部。消化・吸収の中心となる部分 |
| 回腸 | 小腸最後の部分。パイエル板(免疫組織)が多く、回盲弁につながる |
大腸は全長約1.6mで、盲腸・結腸(上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸)・直腸の3つに区分されます。盲腸には虫垂が付属し、結腸には縦走する3本の筋がひも状に見える結腸ヒモ、規則的なふくらみである結腸膨起(ハウストラ)、脂肪を含んで垂れる腹膜垂という特徴的な構造があります。
大腸では消化作用はほとんど行われず、主に小腸で消化された食物残渣から水分と電解質(ナトリウム・塩素など)を吸収し、便をつくって直腸に一時的に貯留する働きを担います。
排便は肛門の2つの括約筋で調節されます。内肛門括約筋は平滑筋(不随意筋)で常に軽く収縮して肛門を閉じており、外肛門括約筋は横紋筋(随意筋)で自分の意思で締めたりゆるめたりできます。食事をすると胃が刺激されて胃大腸反射が起こり、大腸の運動が活発になって便意が生じます。
| 区分 | 特徴 |
|---|---|
| 盲腸 | 右下腹部に位置し虫垂が付属 |
| 結腸(上行・横行・下行・S状) | 結腸ヒモ・結腸膨起(ハウストラ)・腹膜垂が特徴 |
| 直腸 | 便を一時的に貯留する(直腸膨大部) |
| 肛門括約筋 | 内肛門括約筋=平滑筋(不随意)、外肛門括約筋=横紋筋(随意) |
肝臓は人体最大の腺(重さ約1,200g)で、右上腹部に位置し右葉・左葉に分かれ、下面に胆嚢が付着します。主な働きは①栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の代謝、②アルコールや薬物・アンモニアなど有害物質の解毒、③消化を助ける胆汁の産生、④血液の貯蔵の4つです。肝臓は多数の肝小葉(肝臓の基本単位)から構成され、血液は門脈+肝動脈→類洞→中心静脈→肝静脈→下大静脈へと流れる一方、胆汁は肝細胞→毛細胆管→小葉間胆管→肝管→総胆管→十二指腸へと血液と逆方向に流れます。類洞にはマクロファージであるクッパー細胞が存在し、異物や老化赤血球を処理します。
胆嚢は肝臓の下面にあるナス形の袋(長さ約9cm・内容量約70mL)で、胆汁を作らず、貯蔵・濃縮するだけという点が重要です。食物(特に脂肪)が十二指腸に入るとコレシストキニン(CCK)が分泌され、胆嚢を収縮させて胆汁排出を促進します。胆汁中のコレステロールやビリルビンが沈着すると胆石が形成されます。
膵臓は長さ約15cm・重さ約70gの細長い臓器で、膵頭部は十二指腸に囲まれ膵尾部は脾臓に接します。外分泌部(膵腺房)はアミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなどの消化酵素を含む膵液を分泌し、内分泌部(ランゲルハンス島)ではβ細胞が血糖値を下げるインスリンを、α細胞が血糖値を上げるグルカゴンを分泌します。膵管は総胆管と合流し、大十二指腸乳頭(オッディ括約筋の部位)へ開口します。
| 臓器 | 主な働き | キーワード |
|---|---|---|
| 肝臓 | 代謝・解毒・胆汁産生・血液貯蔵 | 人体最大の腺(約1,200g)、肝小葉が基本単位 |
| 胆嚢 | 胆汁の貯蔵・濃縮(産生はしない) | CCKの刺激で収縮し胆汁を排出 |
| 膵臓(外分泌) | 消化酵素(アミラーゼ・リパーゼ・トリプシン)の分泌 | 膵管は総胆管と合流し大十二指腸乳頭へ開口 |
| 膵臓(内分泌) | 血糖調節 | インスリン(血糖↓)・グルカゴン(血糖↑) |
腹膜は胸膜・心膜と同じ漿膜の一種で、腹腔内の臓器を包み摩擦を防ぎ支える役割をもちます。腹壁内面を覆う壁側腹膜と、胃・小腸・大腸・肝臓など臓器の表面を覆う臓側腹膜に区別され、その移行部にあたる間膜(腸間膜)には血管・リンパ管・神経が通ります。
臓器は腹膜との関係から2つに分類されます。腹膜に包まれ自由に動く腹膜内臓器(胃・小腸〈空腸・回腸〉・横行結腸・S状結腸・肝臓・脾臓など)と、後腹壁に固定される腹膜後器官(腎臓・副腎・膵臓の大部分・上行結腸・下行結腸・直腸の上部2/3・十二指腸第2〜4部など)です。この可動性・固定性の区別は国試でよく問われます。
また小網(肝十二指腸間膜)は肝臓と胃・十二指腸を連結し肝動脈・門脈・胆管が通る通路、大網(胃大網)は胃の大弯から垂れ下がる脂肪に富む膜で腸管を覆い、感染部位を包み込んで炎症の拡大を防ぐ「腹腔の番人」としての役割をもちます。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 壁側腹膜 | 腹壁内面を覆う |
| 臓側腹膜 | 胃・小腸・大腸・肝臓など臓器の表面を覆う |
| 腹膜内臓器(可動性) | 胃・小腸・横行結腸・S状結腸・肝臓など |
| 腹膜後器官(固定性) | 腎臓・副腎・膵臓(大部分)・上行/下行結腸・直腸上部など |
| 小網/大網 | 小網=肝臓と胃・十二指腸を連結/大網=胃大弯から垂れ炎症拡大を防ぐ |