鍼灸理論では「どんな鍼具を」「どの角度で」「どのくらい留めて」使うのかが繰り返し問われます。ここでは古代九鍼(黄帝内経に記載された9種類の鍼)、刺鍼の角度(直刺・斜刺・横刺)、皮内鍼・円皮鍼という置きっぱなしにする持続刺激の鍼、刺さずに皮膚を刺激する小児鍼を、ひとつのテーマとしてまとめて整理します。ポイントは「刺すか/刺さないか」「深いか/浅いか」「短時間か/長時間か」という3本の軸。この軸で並べ直すと、バラバラに見えた鍼具と手技が一本の線でつながります。
| 分野 | 鍼灸理論(鍼具・刺鍼法・特殊鍼法) |
|---|---|
| 古代九鍼の出典 | 黄帝内経(こうていだいけい) |
| 古代九鍼の数 | 9種類(鑱鍼・円鍼・鍉鍼・鋒鍼・鈹鍼・員利鍼・毫鍼・長鍼・大鍼) |
| 現在の鍼の原型 | 毫鍼(ごうしん) |
| 刺鍼の角度 | 直刺 約90°/斜刺 約30〜60°/横刺(水平刺・地平刺)約10〜20°以下 |
| 皮内鍼の考案者 | 赤羽幸兵衛(あかばね こうべえ) |
| 皮内鍼の長さ | 3〜7mm(皮内へ水平に刺入し筋には刺さない) |
| 円皮鍼の形状・別名 | 円盤状の台座付き短鍼/中国では撳針(けんしん) |
| 留置期間の目安 | 数日間〜1週間程度 |
| 小児鍼の対象 | 乳児・幼児・学童(鍼刺激に敏感な人・鍼を嫌がる人にも応用) |
| 小児鍼の主な鍼具 | いちょう鍼・うさぎ鍼・集毛鍼・車鍼(ローラー鍼)・振子鍼・円鍼 |
| 小児鍼の代表適応 | 疳虫(夜泣き・夜驚症・イライラ・落ち着きがない)ほか感冒・食欲不振・下痢・便秘・虚弱体質 |
古代九鍼(こだいきゅうしん)とは、古代中国の医学書「黄帝内経」に記載された9種類の鍼の総称です。単なる骨董品ではなく、病態や治療目的に合わせて使い分けられていた治療器具のセットである点が重要です。現在一般に使われている毫鍼も、この九鍼のうちの毫鍼がそのまま原型になっています。
| No. | 名称(読み) | 形状・特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ① | 鑱鍼(ざんしん) | 皮膚を浅く刺激する鍼 | 熱や腫れを取り除く |
| ② | 円鍼(えんしん) | 刺さない鍼。先が丸い | 皮膚をさする・押す(接触鍼) |
| ③ | 鍉鍼(ていしん) | 刺さない鍼 | 経絡を刺激する(小児鍼などにも使用) |
| ④ | 鋒鍼(ほうしん) | 三角形(三稜)の先端 | 瀉血(しゃけつ)=少量の血を出す |
| ⑤ | 鈹鍼(ひしん) | メスのような形 | 膿や腫瘍の切開に使用 |
| ⑥ | 員利鍼(えんりしん) | 丸みのある先端 | 深部の病変を治療する |
| ⑦ | 毫鍼(ごうしん) | 現在の鍼に最も近い形 | 一般的な鍼治療に使用(現代鍼の原型) |
| ⑧ | 長鍼(ちょうしん) | 長い鍼 | 深部組織まで届かせ治療する |
| ⑨ | 大鍼(だいしん) | 最も太く大きい鍼 | 関節液や膿を排出する目的 |
九鍼は名前を丸暗記するより、使用法による3分類で束ねたほうが得点力が上がります。九鍼は皮膚を破るもの・体内に刺入するもの・刺入せず皮膚表面を刺激するものの3群に分かれます。
覚え方のゴロは「鑱・円・鍉は触る(ささする)」「鋒・鈹は破る」「員利・毫・長・大は刺す」。この3行を書けるようにしておけば、分類問題はほぼ落としません。
| 分類 | 内容 | 該当する鍼 |
|---|---|---|
| ① 破る鍼 | 皮膚や病変部を破って治療する | 鑱鍼・鋒鍼・鈹鍼 |
| ② 刺入する鍼 | 身体に刺入して治療する | 員利鍼・毫鍼・長鍼・大鍼 |
| ③ 刺入しない鍼 | 皮膚表面を刺激する(接触鍼) | 円鍼・鍉鍼 |
鍼具が決まったら、次はどの角度で刺すかです。刺鍼の角度は直刺・斜刺・横刺の3種類。数値がそのまま出題されるので、角度と代表部位をセットで押さえます。
角度の選択基準は「部位・筋肉の厚さ・臓器の有無・治療目的」。とくに胸部・背部は気胸のリスクがあるため直刺で深刺しないこと、顔面部や頭部は皮膚が薄いため横刺が選ばれることが安全管理の観点からも問われます。
| 刺鍼法 | 読み | 皮膚に対する角度 | よく使う部位 | ねらい |
|---|---|---|---|---|
| 直刺 | ちょくし | 約90°(垂直) | 腰部・臀部・大腿部 | 筋の厚い部位で深部まで刺激する |
| 斜刺 | しゃし | 約30〜60° | 胸部・肩上部・頸部 | 深刺による臓器損傷を避けつつ刺激する |
| 横刺(水平刺・地平刺) | おうし | 約10〜20°以下(ほぼ平行) | 頸部・顔面部・腹部の浅刺 | 皮膚が薄い部位を浅く安全に刺激する |
通常の刺鍼は数分〜数十分で抜きますが、皮内鍼・円皮鍼は鍼をテープで固定して数日間留置し、持続的な刺激を与える特殊鍼法です。慢性疼痛や肩こり・腰痛、スポーツ選手のコンディショニングなど、日常生活を送りながら刺激を続けたい場面で使われます。
覚え方は「皮内鍼=横に刺して貼る/円皮鍼=縦(垂直)に刺して貼る」。刺入方向の違いが最大の識別ポイントで、ここを入れ替えた選択肢が定番の引っかけです。
| 項目 | 皮内鍼(ひないしん) | 円皮鍼(えんぴしん) |
|---|---|---|
| 考案者 | 赤羽幸兵衛 | ― |
| 形状 | 長さ3〜7mmの短い鍼(リング型・平軸型) | 円盤状の台座付き短鍼、テープ一体型が多い |
| 刺入方向 | 皮内へ水平に刺入(筋には刺さない) | 皮内へ垂直に刺入 |
| 別名 | ― | 中国では撳針(けんしん) |
| 留置 | 長時間留置して持続刺激 | 長時間留置して持続刺激 |
| 主な適応 | 慢性疼痛・肩こり・腰痛・筋緊張 | 慢性疼痛・筋緊張・筋疲労・スポーツ選手のコンディショニング |
| 応用 | ― | 耳鍼療法に多用 |
小児鍼(しょうにしん)は乳幼児〜学童期の子どもに行う、刺さない鍼が中心の鍼治療です。皮膚表面を刺激するだけなので痛みが少なく・恐怖感が少なく・安全性が高いのが特徴。子どもだけでなく、鍼刺激に敏感な人や鍼を嫌がる成人にも応用されます。用いる鍼具は前述の「刺入しない鍼」の系譜(円鍼・鍉鍼など)に連なります。
覚え方は「小児鍼=刺さずに皮膚を刺激/車鍼=コロコロ転がす/疳虫=夜泣き・夜驚/小児鍼=なでる・叩く・触れる」。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 乳幼児〜学童期の子どもに行う、刺さない鍼が中心の優しい鍼治療 |
| 特徴 | 刺さない鍼が中心/痛みが少ない/恐怖感が少ない/安全性が高い |
| 対象 | 乳児・幼児・学童(鍼刺激に敏感な人・鍼を嫌がる人にも応用) |
| 鍼具 | いちょう鍼・うさぎ鍼・集毛鍼・車鍼(ローラー鍼)・振子鍼・円鍼 |
| 手技 | 接触・軽擦・叩打・押圧・軽く引っ掻く |
| 適応(疳虫) | 夜泣き・夜驚症・イライラ・落ち着きがない |
| 適応(その他) | 感冒・食欲不振・下痢・便秘・虚弱体質 など |
最後に4つのテーマを一枚の地図にまとめます。刺さない鍼(円鍼・鍉鍼・小児鍼の各鍼具)→ 浅く長時間置く鍼(皮内鍼・円皮鍼)→ 刺入する鍼(毫鍼を角度で使い分け)→ 破る鍼(鋒鍼・鈹鍼)という順で、刺激の侵襲度が上がっていくイメージを持つと混乱しません。
| 侵襲度 | 手技・鍼具 | 刺入の有無 | 刺激時間 |
|---|---|---|---|
| 最も低い | 小児鍼(車鍼・いちょう鍼など)・接触鍼(円鍼・鍉鍼) | 刺入しない | 短時間・反復 |
| 低い | 皮内鍼(水平)・円皮鍼(垂直) | 皮内のみ(浅い) | 数日間〜1週間の長時間留置 |
| 中 | 毫鍼による刺鍼(直刺・斜刺・横刺) | 刺入する | 1回の施術時間内 |
| 高い | 鋒鍼(瀉血)・鈹鍼(切開)・大鍼(排膿) | 破る/深く刺入 | 処置的・単回 |