けがをして血管が破れたとき、体はまず血管収縮で出血量を減らし、次に血小板血栓(一次止血)で穴を仮止めし、最後にフィブリン(二次止血=血液凝固)で本格的に固めます。この3ステップは「水漏れを減らす → テープで応急処置 → 鉄筋とセメントで補強工事」という道路工事のイメージで覚えると一気に整理できます。
このページでは、止血の流れ・凝固カスケードの3相・Ca2+とビタミンKの役割・線溶・そして血友病やビタミンK不足など出血しやすくなる病態まで、国家試験で問われる形にまとめて解説します。
| 分野 | 病理学(血液・循環障害) |
|---|---|
| テーマ | 止血機構と血栓形成、および凝固異常 |
| 止血の3ステップ | ①血管収縮 → ②一次止血(血小板血栓) → ③二次止血(血液凝固・フィブリン) |
| 一次止血の主役 | 血小板(骨髄の巨核球由来・無核の細胞片) |
| 二次止血の主役 | 血液凝固因子とフィブリン(Ⅰ因子由来) |
| 一次止血の速さ・強さ | 速い(数十秒〜数分)/弱く壊れやすい「仮止め」 |
| 二次止血の速さ・強さ | やや遅い(数分〜数十分)/強固で安定・血流に耐える |
| 凝固カスケードの3相 | 第1相:第X因子活性化/第2相:プロトロンビン→トロンビン/第3相:フィブリノゲン→フィブリン |
| 必須の補助因子 | Ca²⁺(Ⅳ因子)とビタミンK |
| ビタミンK依存性凝固因子 | Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ |
| 凝固因子の産生場所 | 主に肝臓(肝障害で産生低下) |
| 血栓を溶かす仕組み | 線溶系:プラスミンがフィブリンを分解 |
| 代表的な出血性疾患 | 血友病A(Ⅷ欠乏)/血友病B(Ⅸ欠乏)/ビタミンK欠乏/重症肝疾患/血小板減少(ITPなど) |
血管が損傷すると、血液が体外へ流出しないように直ちに防御反応が始まります。これが止血(hemostasis)です。止血は大きく3つの段階に分かれ、この順番と役割の違いが国試の最頻出ポイントになります。
血管収縮が起こる理由は、①神経反射、②血管壁自身の反応、③血小板から放出される化学物質の3つです。とくにセロトニンとトロンボキサンA2が血管を縮める物質として重要です。
工事に例えると、血管収縮=「水漏れを減らす」、血小板集合=「応急処置のテープ」、血液凝固=「本格的な補強工事」というイメージです。
| 項目 | 一次止血 | 二次止血 |
|---|---|---|
| 別名 | 血小板血栓の形成 | 血液凝固 |
| 主役 | 血小板 | 凝固因子・フィブリン |
| 速さ | 速い(数十秒〜数分) | やや遅い(数分〜数十分) |
| 強さ | 弱い(仮止め・壊れやすい) | 強固で安定・血流にも耐える |
| 異常のときの呼び名 | 一次止血異常(血小板異常) | 二次止血異常(凝固因子異常) |
| 主な症状 | 紫斑・点状出血・鼻血・歯ぐきの出血・月経過多 | 深部出血・筋肉内出血・関節内出血・血腫・止血困難 |
一次止血の主役は血小板です。血小板は骨髄の巨核球からつくられる核を持たない小さな細胞片で、血液中を流れながら出血時にすぐ反応します。
一次止血は次の流れで進みます。この4語(粘着→活性化→放出→凝集)はそのまま覚えてください。
ただしこの血小板血栓はまだ弱く不安定な「仮止め」の状態です。この後、フィブリンによる強固な止血(二次止血)へと必ず続きます。
| 放出物質 | 主な働き |
|---|---|
| ADP | 仲間の血小板を呼び寄せる信号。さらに活性化させ、凝集を促進する |
| セロトニン | 血管を収縮させて出血量を減らす |
| トロンボキサンA₂ | 血小板凝集を強め、血管収縮も起こす |
| vWF(フォン・ヴィレブランド因子) | 血小板をコラーゲンに接着させる「のり」の役割 |
二次止血=血液凝固は、血液中の血液凝固因子(主に肝臓で産生されるタンパク質。Ⅰ〜ⅩⅢの番号がつく)が連鎖的(カスケード)に活性化していく反応です。普段は不活性型ですが、出血時に順番に活性化して働きます。
スタートは2つのルートです。
この2つのルートは合流し、最終的に第X因子が活性化されます。「内因系と外因系の最終目的地が第X因子」という点は国試頻出です。
そこから先は次の3相として整理されます。
最後に第ⅩⅢ因子(Ca2+依存性)がフィブリンを架橋して安定化させ、壊れにくい強い血栓が完成します。フィブリンは網目状になって赤血球・白血球・血小板をしっかり絡め取ります。
トロンビンは単にフィブリンをつくるだけでなく、ほかの凝固因子を活性化する、血小板をさらに活性化するという働きも持ち、凝固反応を加速させる中心的な酵素です。
| 相 | 反応 | ポイント |
|---|---|---|
| 第1相 | 内因系(ⅩⅡ→ⅩⅠ→Ⅸ→Ⅷ)・外因系(Ⅲ→Ⅶ)が合流し第X因子を活性化 | 両系の合流点=第X因子 |
| 第2相 | プロトロンビン(Ⅱ)→ トロンビン(Ⅱa) | Ca²⁺が必須 |
| 第3相 | フィブリノゲン(Ⅰ)→ フィブリン | トロンビンが触媒。ⅩⅢ因子で架橋・安定化 |
| 仕上げ | フィブリン網が赤血球・白血球・血小板を捕獲 | 強固な血栓が完成 |
凝固カスケードは、Ca2+(カルシウム=第Ⅳ因子)とビタミンKという2つのサポート役なしには進みません。
Ca2+が必要な場面
→ Ca2+が不足すると凝固障害が起こります(採血管に入っているクエン酸やEDTAはCa2+を除去して凝固を止める薬剤です)。
ビタミンKが必要な場面
ビタミンKは肝臓で凝固因子を合成するときに必要で、対象となるのはⅡ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹの4つ。「肉(2・9)納豆(7・10)」のような語呂で覚えると確実です。
また、凝固因子のほとんどは肝臓で作られるため、肝臓は「凝固因子の工場」と表現されます。肝機能が低下すると、Ⅰ・Ⅱ・Ⅴ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ・ⅩⅠ・ⅩⅡなど広範囲の産生が落ち、出血傾向が強くなります。
| 補助因子 | 役割 | 不足するとどうなるか |
|---|---|---|
| Ca²⁺(第Ⅳ因子) | X因子活性化・トロンビン生成・フィブリン安定化・因子どうしの結合 | 凝固反応が進まず凝固障害 |
| ビタミンK | 肝臓でⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹを合成するのに必要(脂溶性ビタミン) | 凝固因子が作れず出血しやすくなる |
| 肝臓 | ほぼすべての凝固因子の産生場所 | 肝硬変・重症肝炎などで産生低下→出血傾向 |
止血が終わってそのまま血栓が残り続けると、血管が詰まってしまいます。そこで、不要になった血栓を溶かして血管を元の状態に戻す仕組みがあります。これを線溶(線維素溶解)といいます。
つまり体の中では、凝固(固める)と線溶(溶かす)のバランスが常に取られています。このバランスが崩れると、血栓症(固まりすぎ)や出血傾向(固まらない)が起こります。
| 系 | 中心となる物質 | 働き |
|---|---|---|
| 凝固系 | トロンビン | フィブリノゲンをフィブリンに変えて血栓をつくる |
| 線溶系 | プラスミン | フィブリンを分解して血栓を溶かす |
止血機構のどこかに異常が起こると、血が止まりにくくなり出血傾向が現れます。「どこが悪いのか」を考えることが診断と治療のカギです。
| 疾患・病態 | 異常の場所 | キーワード | 主な出血の型 |
|---|---|---|---|
| 血友病A | 第Ⅷ因子欠乏(内因系) | X染色体劣性・男児に多い | 関節内出血・筋肉内出血・深部出血 |
| 血友病B | 第Ⅸ因子欠乏(内因系) | 血友病Aと同型の遺伝 | 関節内出血・深部出血 |
| ビタミンK欠乏 | Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹの合成低下 | 胆道閉塞・脂肪吸収障害・抗菌薬・新生児 | 出血傾向・内出血 |
| 重症肝疾患 | 凝固因子の産生低下 | 肝硬変・劇症肝炎 | 紫斑・消化管出血・処置後出血 |
| 血小板減少(ITPなど) | 一次止血の障害 | 紫斑・点状出血・押しても消えない | 紫斑・点状出血・鼻血・歯肉出血 |
ここまでの内容を、試験直前に見返せる形に凝縮します。合言葉は「血小板でふさぎ、フィブリンで固める!」です。
加えて、出血傾向の4大原因(血友病・ビタミンK不足・重症肝疾患・血小板減少)と、それぞれが「一次止血の障害」か「二次止血(凝固)の障害」かを区別できるようにしておきましょう。紫斑や点状出血=一次止血異常、関節内出血や筋肉内出血=二次止血異常という対応が最大の鑑別ポイントです。
| 問われ方 | 答え |
|---|---|
| 一次止血の主役は? | 血小板 |
| 二次止血の主役は? | 凝固因子とフィブリン |
| 内因系と外因系の合流点は? | 第X因子 |
| プロトロンビンを何が何に変える? | 活性化第X因子がトロンビンに変える |
| フィブリノゲンをフィブリンに変えるのは? | トロンビン |
| 血小板の由来は? | 骨髄の巨核球 |
| 血小板をコラーゲンに接着させる因子は? | vWF(フォン・ヴィレブランド因子) |
| 血栓を溶かす酵素は? | プラスミン |