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手根管症候群の病態・症状・診断・治療

手根管症候群は、手のひら側のトンネルである手根管の内部で正中神経が圧迫されて起こる絞扼神経障害です。50代女性に多く、母指から環指橈側半分のしびれ・感覚低下が中心で、進行すると母指球筋が萎縮して対立運動障害をきたします。夜間から明け方に悪化するのが特徴で、ファーレンテストやティネル徴候が診断の手がかりになります。

手根管症候群|手根管症候群 1
読み方しゅこんかんしょうこうぐん
病態手根管内で正中神経が圧迫される絞扼神経障害
障害神経正中神経(手根管内)
好発50代女性(中高年女性)/発症は20〜90代
側性利き腕側の片側性が多い(特発性)
主症状母指〜環指橈側半分のしびれ・感覚低下、母指球筋の脱力・萎縮、進行で対立運動障害
特徴夜間〜明け方にしびれ・痛みが増強(夜中に目が覚めることも)
診断ファーレンテスト、ティネル徴候、神経伝導速度低下、手根管内圧15mmHg以上で異常
治療約3か月の保存療法(NSAIDs・ビタミンB12・安静・固定装具・ステロイド局注)→改善しなければ横手根靭帯切離術
予後一般に良好(透析例では再発もあり)

手根管症候群とは(病態と手根管の構造)

手根管症候群は、手のひら側にある手根管というトンネルの中で正中神経が圧迫されて生じる絞扼神経障害です。手根管は手根骨が作る底と側壁の上に、屋根として手根靭帯(横手根靭帯)がかぶさってできています。

この狭いトンネルの中を、屈筋腱9本正中神経が一緒に通っています。腱の腫れやトンネル内圧の上昇によって内容物が増えると、逃げ場のない正中神経が押しつぶされ、しびれや痛みが出現します。

手根管の構成内容
屋根手根靭帯(横手根靭帯)
管内を通る腱屈筋腱 9本
管内を通る神経正中神経
起こること正中神経が圧迫され絞扼神経障害となる
手根管の横断図。手根靭帯を屋根とするトンネル内で、屈筋腱9本とともに走る正中神経が圧迫される
手根管の横断図。手根靭帯を屋根とするトンネル内で、屈筋腱9本とともに走る正中神経が圧迫される

疫学 ― 50代女性に多い

手根管症候群は50代女性に多い疾患です。とくに原因のはっきりしない特発性のものは女性に多く中高年の女性に発症しやすいことが知られています。

発症年齢の幅は広く、20代から90代まで報告されます。側性については、利き腕側の片側性が多いのが特徴です。

項目特徴
好発年齢50代(発症は20〜90代と幅広い)
性別特発性は女性に多い
対象中高年の女性に発症しやすい
側性利き腕側の片側性が多い
手根管症候群の疫学。50代女性に多く、特発性は女性・利き腕側の片側性が多い
手根管症候群の疫学。50代女性に多く、特発性は女性・利き腕側の片側性が多い

透析関連手根管症候群 ― 差が少ないのが特徴

長期透析患者に発症する透析関連手根管症候群は、特発性のものとは疫学的な特徴が異なります。特発性が「女性・利き腕側」に偏るのに対し、透析例では差が少ないのがポイントです。

つまり透析関連手根管症候群は「性別」「左右」「シャント側」のいずれでも差が少ない、と覚えます。特発性との対比で問われやすい項目です。

比較項目特発性透析関連
性別女性に多い男女比ほぼ1:1
左右差利き腕側の片側性が多い左右差が少ない
シャント側シャント側・非シャント側もほぼ同じ
透析関連手根管症候群は性別・左右・シャント側での差が少ない
透析関連手根管症候群は性別・左右・シャント側での差が少ない

原因 ― 正中神経の圧迫を招く背景疾患

手根管症候群は、いずれも最終的には正中神経の圧迫によって発症します。その背景には、手根管内の腫れや内容物の増加を招くさまざまな全身状態・疾患があります。

特発性(原因不明)も多く、その場合は中高年女性に好発します。

分類原因
生理的・体格妊娠、肥満
代謝・内分泌糖尿病、甲状腺機能低下症
沈着アミロイドーシス
関節・炎症痛風、RA(関節リウマチ)
共通の機序正中神経の圧迫で発症
妊娠・肥満・糖尿病・甲状腺機能低下症・アミロイドーシス・痛風・RAなどが背景となる
妊娠・肥満・糖尿病・甲状腺機能低下症・アミロイドーシス・痛風・RAなどが背景となる

症状 ― しびれ・知覚障害が中心

手根管症候群の症状はしびれ・知覚障害が中心です。症状は正中神経の支配領域に一致して出現します。

感覚障害が先行し、進行すると母指球筋の萎縮・対立運動障害へと至る流れを押さえておきましょう。

症状の種類内容
感覚障害母指〜環指橈側半分のしびれ・感覚低下(正中神経領域)
運動障害母指球筋の脱力・萎縮(母指球がやせる)
進行時対立運動障害
正中神経領域(母指〜環指橈側半分)のしびれと、母指球筋の萎縮・対立運動障害
正中神経領域(母指〜環指橈側半分)のしびれと、母指球筋の萎縮・対立運動障害

夜間〜明け方の悪化という特徴

手根管症候群の大きな特徴が、夜間から明け方にかけて症状が悪化することです。

その理由は、夜間は手首が屈曲した姿勢になりやすく、正中神経が圧迫されやすいためです。この機序が分かっていると、治療で夜間の固定装具が使われる理由も理解しやすくなります。

夜間〜明け方にしびれ・痛みが増強し、夜中に目が覚めることもある
夜間〜明け方にしびれ・痛みが増強し、夜中に目が覚めることもある

ファーレンテスト(Phalen test)

ファーレンテストは手根管症候群の代表的な誘発テストです。手関節を屈曲位に保つことで手根管内圧を上昇させ、症状を誘発します。

  1. 手関節を掌屈させる
  2. 左右の手背を合わせる(手の甲どうしを合わせた姿勢を保持する)

この姿勢で正中神経領域のしびれ・痛みが増強すれば陽性です。夜間に症状が悪化する機序(手首の屈曲による圧迫)と同じ原理を、診察室で再現するテストだと理解すると覚えやすくなります。

手順内容
手関節を掌屈させる
手背(手の甲)を合わせる
判定しびれ・痛みが増強すれば陽性
ファーレンテスト:手関節を掌屈し手背を合わせて、しびれ・痛みの増強をみる
ファーレンテスト:手関節を掌屈し手背を合わせて、しびれ・痛みの増強をみる

その他の診断法 ― ティネル徴候・神経伝導速度・手根管内圧

ファーレンテスト以外にも、複数の検査を組み合わせて総合的に診断します。

いずれか1つで確定するのではなく、症状と他の検査を組み合わせて診断する点が重要です。

検査方法所見・基準
ティネル徴候手根管部を叩打する正中神経領域にしびれが走れば陽性
ファーレンテスト手関節を掌屈し手背を合わせるしびれ・痛みが増強すれば陽性
神経伝導速度神経の電気の流れを測定伝導速度の低下
手根管内圧測定手根管の内圧を測定15mmHg以上で異常
ティネル徴候・神経伝導速度低下・手根管内圧15mmHg以上を組み合わせて総合的に診断する
ティネル徴候・神経伝導速度低下・手根管内圧15mmHg以上を組み合わせて総合的に診断する

治療① まずは保存療法(約3か月)

手根管症候群の治療は、まず約3か月の保存療法から始めます。保存療法によって症状の悪化を防ぎ、手術を回避できる可能性があります。

保存療法目的
NSAIDs(薬物療法)痛みやしびれをやわらげる
ビタミンB12(メチコバール)神経の修復をサポート
安静・リストレスト手首の負担を減らす
挙上運動むくみを軽減し血流を改善
夜間の固定装具就寝中の手首の動きを制限
ステロイド局注炎症を抑えて症状を改善
約3か月の保存療法。NSAIDs・ビタミンB12・安静・固定装具・局注などを組み合わせる
約3か月の保存療法。NSAIDs・ビタミンB12・安静・固定装具・局注などを組み合わせる

治療② 手術と予後

保存療法で改善しないときは手術を検討します。手術では、手根管の屋根にあたる横手根靭帯を切離してトンネルを開放し、正中神経への圧迫を取り除きます。

予後は一般に良好です。ただし、透析例では再発することもあり、注意が必要です。

項目内容
適応保存療法(約3か月)で改善しない場合
術式横手根靭帯を切離して手根管を開放
予後一般に良好
注意透析例では再発もある
横手根靭帯を切離して手根管を開放する。予後は一般に良好だが透析例では再発も
横手根靭帯を切離して手根管を開放する。予後は一般に良好だが透析例では再発も
国試ポイント
① 手根管症候群=手根管内で正中神経が圧迫される絞扼神経障害。手根管の屋根は手根靭帯、管内を屈筋腱9本と正中神経が通る
② 好発は50代女性(発症は20〜90代)。特発性は女性・利き腕側の片側性が多いが、透析関連では男女比ほぼ1:1で左右差・シャント側の差が少ない
③ 症状は正中神経領域=母指〜環指橈側半分のしびれ・感覚低下が中心。進行で母指球筋の萎縮・対立運動障害。夜間〜明け方に増悪(手首が屈曲位になり圧迫されやすいため)
④ 診断はファーレンテスト(手関節掌屈・手背を合わせる)、ティネル徴候(手根管部の叩打)、神経伝導速度低下、手根管内圧15mmHg以上で異常
⑤ 治療はまず約3か月の保存療法(NSAIDs・ビタミンB12・安静・夜間固定装具・ステロイド局注)。改善しなければ横手根靭帯切離術。予後は一般に良好だが透析例では再発もある
⑥ 原因は妊娠・肥満・糖尿病・甲状腺機能低下症・アミロイドーシス・痛風・RAなど。いずれも正中神経の圧迫で発症する
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