東洋医学における胃は、飲食物を受け入れ、消化し、生命活動の材料を作る「倉廩の官」です。このページでは、受納・腐熟・降濁・喜湿悪燥という4つの生理作用、脾とのセットの働き、胃気の下降障害で出やすい症状、そして食滞胃脘・胃熱(胃火)・胃陰虚という代表的な病証の原因・症状・養生までを、スライドの流れに沿って全部テキストで確認できます。
| 読み方 | い |
|---|---|
| 別名 | 倉廩の官(五味これより出づ) |
| 分類 | 六腑 |
| 表裏関係 | 脾(胃が受け入れ消化し、脾が栄養を吸収して全身へ運ぶ) |
| 主な生理作用 | 受納・腐熟・降濁・喜湿悪燥(潤いを好み乾燥を嫌う) |
| 気の方向 | 胃気は下降を主る(下降障害=胃気上逆で不調) |
| 代表的な病証 | 食滞胃脘・胃熱(胃火上炎)・胃陰虚 |
| 代表症状 | 胃脘部痛・食欲異常・吐き気・嘔吐・呑酸・胸やけ・噯気・胃もたれ・便秘 |
東洋医学では、胃は単なる消化器ではなく、飲食物を受け入れ、消化し、生命活動の材料を作る重要な臓腑と考えます。「倉廩」とは食料を蓄える倉庫のこと。つまり胃は、体に入ってきた食べ物を一度受け止め、そこから必要な栄養を取り出す場所という意味です。
「五味これより出づ」の五味とは、酸・苦・甘・辛・鹹のことです。食べ物にはそれぞれ性質があり、胃に入ることで消化され、栄養となって全身へ運ばれます。そのため胃は、気・血・津液を作る出発点=生命エネルギーのスタート地点と考えられます。
東洋医学では胃と脾はとても関係が深く、胃が食べ物を受け取り、脾が栄養に変えて運ぶという流れです。この働きがうまくいくと、気血が充実し、身体に元気が出ます。
| 臓腑 | 働き |
|---|---|
| 胃 | 食べ物を受け入れて消化する |
| 脾 | 消化された栄養を吸収して全身へ運ぶ |
胃の働きが悪くなると、単に胃が不調になるだけでなく全身症状につながります。だからこそ、胃が整う=全身の元気が整うと考えます。胃は食べ物を受け入れ、消化し、気血を作る土台です。
| 状態 | 現れるサイン |
|---|---|
| 胃が元気な状態 | 食欲がある/食後に胃もたれしない/便通が安定する/疲れにくい/顔色がよい/筋肉に力が入る(飲食物からしっかり栄養を作れているため) |
| 胃が弱ると | 食欲不振・胃もたれ・吐き気・げっぷ・下痢・疲労感・気力低下 → 東洋医学ではこれを「後天の気が不足する」と考える |
| 全身への影響 | 気が不足する/血が不足する/体力が落ちる/免疫力が低下する/回復力が落ちる |
東洋医学では胃は「飲食物を受け入れ、消化し、下へ送る臓腑」と考えられます。特に重要なのが次の4つの働きで、これらが正常に働くことで身体はしっかり栄養を作り、健康を維持できます。
| 生理作用 | 読み方 | 内容 |
|---|---|---|
| 受納 | じゅのう | 食べ物や飲み物を受け入れる働き。西洋医学でいう「胃の貯留機能」に近い |
| 腐熟 | ふじゅく | 食べ物を消化・分解し、栄養として利用できる状態にする働き(胃酸・消化酵素・胃の撹拌運動などに近い概念) |
| 降濁 | こうだく | 消化したものを下(小腸→大腸)へ送る働き。「胃気は下降を主る」 |
| 喜湿悪燥 | きしつおそう | 胃は潤いを好み、乾燥を嫌う。適度な潤い(胃陰)によって正常に消化活動を行う |
降濁については「胃気は下降を主る」といわれ、胃の気は下方向へ流れるのが正常です。胃が内容物を小腸へ送り、さらに大腸へ流れていきます。胃気上逆の主な原因はストレス・暴飲暴食・胃熱・食滞・肝気鬱結で、特にストレスは肝の気を乱して胃を攻撃し、胃気上逆を起こしやすくします。
また胃陰(津液・水分・潤い)を傷つける原因には、辛いもの・アルコール・熱い食べ物・ストレス・睡眠不足・水分不足・長期の発熱があります。
| 生理作用 | 正常な状態 | 失調すると |
|---|---|---|
| 受納 | 自然に空腹を感じる/食欲が安定する/無理なく食べられる | 食欲不振・少量で満腹・胃もたれ・吐き気。特に脾胃虚弱では「食べたいけど食べられない」状態がよくみられる |
| 腐熟 | 食後に胃が重くならない/栄養吸収が良い/気血がしっかり作られる | 胃もたれ・膨満感・消化不良・下痢・未消化便。さらに食べ物が停滞すると食滞・湿・痰が生じやすくなる |
| 降濁 | 吐き気がない/ゲップが少ない/お腹の張りがない/排便がスムーズ | 胃気上逆(いきじょうぎゃく)になると吐き気・嘔吐、ゲップ・胸やけ、呑酸(酸っぱい液が上がる) |
| 喜湿悪燥 | 胃陰が充実すると胃粘膜が守られる/消化がスムーズ/熱を抑えられる | 胃陰が不足する(胃陰虚)と胃の灼熱感・口渇・空腹感はあるが食べられない・乾いた便・乾嘔(からえずき)など |
これらの症状は胃の働きが乱れているサインで、東洋医学では「胃気の下降障害」によって起こると考えます。原因になりやすいものは、ストレス・暴飲暴食・辛いものの食べ過ぎ・冷たいもののとりすぎ・睡眠不足・不規則な生活習慣です。
正常な状態では胃気が下へスムーズに流れ、消化・吸収がスムーズで、お腹の不快感がなく便通も安定します。胃気が上へ逆流すると消化の停滞・逆流が起こり、さまざまな不調が出現します。さらに胃の乱れは消化吸収の悪化から気血不足を招き、疲れやすい・顔色が悪くなる・冷えやすい・気力が出ない・免疫力の低下など全身の不調につながります。胃を整えることが元気な体への第一歩です。
| 症状 | 内容 |
|---|---|
| 胃脘部痛 | みぞおちのあたりが痛む |
| 食欲異常 | 食欲がない、または食べ過ぎてしまう |
| 吐き気 | ムカムカして気持ちが悪い |
| 嘔吐 | 食べたものを吐いてしまう |
| 呑酸 | 酸っぱい液が上がってくる |
| 胸やけ | みぞおちや胸が焼けるように熱い |
| げっぷ(噯気) | おならのようなげっぷが出る |
| 胃もたれ | 胃が重く、スッキリしない |
| 便秘 | 便が出にくく、スッキリしない |
食滞胃脘は、食べ過ぎや消化不良によって食べ物が胃に停滞した状態です。食べたものがうまく消化されず、胃の中に「停滞」することでさまざまな不調が現れます。東洋医学では、食べ物が胃に停滞すると胃の気の流れが滞り「気滞・食滞」が起こると考えます。停滞したものは熱を生むとされ、放置すると胃熱へ進行しやすくなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因 | 過食(一度にたくさん食べ過ぎる)/脂っこい食事(消化に負担がかかる)/早食い(よく噛まずに胃に負担をかける)/脾胃虚弱(もともと消化機能が弱い体質) |
| 特徴的な症状 | 胃の張り(お腹がパンパンに張って苦しい)/みぞおちの痛み(押さえつけられるように痛む)/強い胃もたれ(食後も胃が重い)/酸っぱいゲップ(呑酸・噯気が頻繁に出る)/吐き気/便秘(コロコロした便になる)/悪臭のある口臭(口の中がネバつく) |
| 胃熱に進行すると | 胃の灼熱感(焼けるような痛み)/強い口臭・口の渇き/便秘・尿の色が濃い/イライラしやすい・顔が赤い など |
| 対処のポイント | 食べ過ぎを避け腹八分目を心がける/脂っこい・甘い・刺激物を控える/よく噛んでゆっくり食べる/消化を助ける食材をとる(大根・山査子・生姜など) |
胃熱(胃火)は、辛い物・脂っこい物の過食などにより、胃に熱がこもった状態です。放置すると胃の熱が強まり、さまざまな不調が慢性化しやすくなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因 | 辛い物の食べ過ぎ/脂っこい物の食べ過ぎ/アルコールの飲み過ぎ/ストレス・イライラ |
| 主な特徴 | 胃の灼熱感/強い口臭/胸やけ/便秘/歯肉腫脹/強い空腹感 |
| 胃火上炎(熱が強くなると) | 胃の熱がさらに上にのぼり、上部に症状が現れる:口内炎・咽頭痛・頭痛 |
胃熱も胃陰虚も、胃のバランスが崩れた状態です。自分の体質に合わせた養生が大切です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因 | 熱病の後/慢性胃炎/ストレス/水分不足(乾燥体質) |
| 主な特徴 | 空腹感はあるが食べられない/乾いた吐き気(乾嘔)/口渇(のどの渇き)/便秘/舌が赤く乾燥 |
| 養生のポイント | 水分をこまめにとる/刺激物(辛い物・アルコール)を控える/睡眠をしっかりとる/胃をいたわる食事を心がける |